前回は、マンションに「新建材」が使われるようになった経緯について説明しました。今回は、マンションの建築に「新建材」が用いられてきた時代背景について見ていきます。

社会的要請でもあった「住宅大量供給」

1968年に日本のGDPは世界第二位になり、1972年には新設住宅着工戸数が現在までの最高となる186万戸を記録しています。その間の1970年には、セキスイハイムM1が発売開始、あらかじめ部材を工場で生産・加工し、建築現場で組み立てるプレハブ工法による住宅の商品化が進みます。

 

同時期の1972年には、「東洋一のマンモス団地」とよばれた、1万戸を越す高層住宅である高島平団地の入居が始まり、1973年には全国の分譲マンション戸数が15万戸を超える第3次マンションブームとなりました。

 

その後も住宅大量供給はしばらく続くことになります。大量供給は社会的要請であったと考えられます。旺盛な住宅需要に対して、今までの自然素材を用いた住宅では、大量供給はとてもおぼつかないものでした。

 

そのため、①内外壁の仕上げや下地にモルタルや塗壁など、水を含んだ材料を使用しない乾式工法による工期短縮、②工場でのプレハブ化による大量生産、③高度な職人技術を必要とせずとも組み立てられる部材のパーツ化、④施工時・引渡し後の手離れの良さを特徴とする新建材が開発されていったのだと思います。

低成長時代の住宅に求められる価値とは?

また、住宅を投機や金融商品ととらえる企業にとっては「工期短縮」は「より早い資金回収」を意味し、安価な新建材は原価圧縮につながります。また、クレームの少なさは、住宅産業界にとっても「渡りに舟」で、瞬く間に新建材に席巻されていったのだと思います。

 

住宅難の高度成長期「質よりも量」が求められた時代には、これで良かったのかもしれません。しかし今は、人口減少の時代。もはや極端な高効率化を目的とした新建材が求められる時代ではないのです。

 

このまま新建材を使い続けて、エアコンや24時間換気システムに依存した暮らしが快適なのかを、立ち止まって考え直す良い機会ではないかと考えます。顧客視点で住宅をとらえるなら「質を犠牲にしてでも一刻も早く入居したい」という思いはないでしょう。何十年も住まい続ける家だからこそ、手間暇かけてつくりあげることに価値を感じるのではないでしょうか。

 

調湿や体感温度の快適さといった、住み心地を左右する要素が、時代の要請だった大量供給や企業の都合で捨て去られてきたとするなら、低成長時代の今は、住まいに快適さを取り戻すにふさわしい時代、であると私たちの会社では考えています。

本連載は、2014年3月20日刊行の書籍『なぜ新築マンションには自然素材が使われないのか』から抜粋したものです。その後の法制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

なぜ新築マンションには自然素材が使われないのか

なぜ新築マンションには自然素材が使われないのか

鈴木 雄二

幻冬舎メディアコンサルティング

注文住宅や、中古住宅のフルリフォームでは、当たり前に使われる、無垢フローリングや、珪藻土塗りの壁などの自然素材。 しかし、新築マンションだけが調湿効果の少ない合板フローリングやビニールクロスなどの新建材で作ら…

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