「子育て世代」に歓迎されたマンションの事例
1989年、「子どもの権利条約」が国連総会で採択され翌年発効されました。当時私たちの会社では、マンションが及ぼす子どもへの影響について研究していて、一戸建て住宅で育つ子との差があることを知りました。
幼児期に階下への音を気にして動き回らないように注意する、高層階に居住していると外に遊びに行かなくなる、敷地内に安心して遊べるスペースがなく、親が外に出さなくなるなど、ショッキングなものでした。
このような問題に対するマンションとして、1995年「アーベイン川越南大塚キッズプレース」を完成させます。建物周囲や1階の日当りのいい共用スペースに、子どもたちが生き生きと遊べる場を設けたり、育児中の親のコミュニティを形成するイベントを開催したりと、子育て世代に歓迎されるマンションとしてしばらくシリーズ化されます。
今でこそさまざまなマンションでキッズルームを見かけますが、20年前は画期的でした。すでに「家族と住まい」を一貫したテーマと考えていたのです。時代は下り、エコヴィレッジシリーズとなっても、活き活きと育つ環境をつくろうという企業姿勢に変わりはありません。
「家族だけの空間」以外の場の必要性
たとえば、集会室の設置要件がなくても、エントランス廻りや屋上など、入居者が集まれる部分を設け、できるだけ家族以外の人とも顔をあわす機会をつくるような計画としています。これは客間・応接間の復権です。日本の住宅は、古来客間があり、大正時代の住宅改善運動の最中にも応接間という招きの場がありました。しかし住宅の高効率化を図るなかで「招きの場」がなくなり、家族だけの濃密すぎる空間となってしまっています。
このことがゆがんだ家族関係につながり、ひいては引きこもりや片付けのできない子どもを育ててしまっているのではないか、と私たちは考えています。やはり他者との接点は大切です。菜園では子どもたちが水やりを行い、子どもであっても地域にとって大事な存在であることを認めてあげられる場となっています。
昔の子どもであれば当たり前にやっていた「家事手伝い」も、家電が充実する中、その機会が減りつつあります。そのため、他人の親に褒められたり、怒られたりする場も今の住環境では外部につくっておくことは想像以上に重要なことと思っています。春先に嫌々ながら水やりを行った子どもたちが、夏に「僕が育てたキュウリ!」と自慢し、よその親にも褒められる際の顔は、実に生き生きとした表情をしています。
子どもたちの社会も変わってきていると私は思います。最近の小学校低学年くらいまでの子どもは、子どもだけで遊ばなくなっているようです。「年上の子どもが年下の子どもの面倒を見る」という文化がなくなってきており、母親がいつもついていると聞きます。しかし、マンション内のコミュニケーションが活発になると、年代を超えた子ども同士も仲良くなるようです。
これは菅原の経験ですが「欅ハウスに引っ越したその日に同じ建物の子どもたちがみんなで『一緒に遊ぼう』と誘いに来てくれました。こんなことは今まで経験したことがなく、『遊びに行っていいの』と子どもが戸惑っていたのを思い出します。その後、毎日一緒に遊んでいましたが、親の目から見て年代の違う子どもが集うことで、人間関係の初歩を学んでいくんだなと実感しました」
私たちは、このような環境に育った子は、将来もずっとまっすぐに育って行ってくれると信じています。