(写真はイメージです/PIXTA)

観光庁が3月8日に行った交通政策審議会観光分科会では、「観光立国推進基本計画(案)」が提示され、「持続可能な観光地域づくり」、「消費額拡大」、「地方誘客促進」の3つがキーワードとして示されました。具体的な目標として2025年に「観光客数は2019年の水準越え」、「訪日外国人旅行消費額単価の2019年水準に対し25%増」などが挙げられています。日本におけるインバウンドの状況と課題について、ニッセイ基礎研究所の渡邊布味子氏が解説します。

2019年の世界のインバウンド客数および旅行消費額単価の動向

このように日本の観光市場の回復はかなり遅れている。しかし、各国・地域の回復状況は参考になるのではないだろうか。ここからは、消費額の増加という政府目標に対して影響が大きいと考えられる各国・地域のインバウンド客の「旅行消費額単価」の推移を確認する。

 

UNWTOによると、コロナ禍前の2019年の旅行消費額単価は、オーストラリアが4,810ドル(約52万円)、次いで米国が2,500ドル(約27万円)であった。この2カ国の旅行消費額単価は突出して高く旅行先してはコストが高い国であると言える。それ以外の国の旅行消費額単価は2,000ドルを下回っており、世界平均は1,020ドル(約11万円)であった。

 

これに対して2019年の日本の旅行消費額単価は1,440ドル(約16万円)と世界平均を上回り、どちらかといえばコストのかかる渡航先ではあるが(図表2)、オーストラリアや米国と比べるとまだまだ低く、2016年策定の2020年政府目標であった旅行消費額8兆円と比較し、旅行消費額が伸び悩んだ原因となったと言えるのではないだろうか。

 

【図表2】
【図表2】

コロナ禍下の観光市場では何が起こっていたか

コロナ禍で世界的に大きく落ち込んだ観光市場であるが、いくつかの各国・地域では、かなり早い時期から急回復している。UNWTOの公表によると、2022年1~5月のインバウンド客数は、アメリカ領バージン諸島で2019年同期比+29%、セント・マーチンで+19%、モルドバで+16%となった。また、旅行消費額はモルドバで2019年同期比+86%、セルビアで+59%、セイシェル諸島で+58%となった。モルドバのように客数回復に比べて旅行消費額の大幅増加となった国・地域は多かった。

 

この時期に旅行できたのは、商用ビザや居住ビザを持つ一部の人、多くは富裕層であったと考えられる。もともとあるコンテンツのうち、高価格帯の宿泊施設、高額の小売り商品が消費されたために、各国・地域の旅行消費額単価が引き上げられたのだろう。また、コロナ禍では、海外旅行が制限された半面、遠い外国には出国せずに外国の雰囲気を味わえる海外領土や自治領のほか、入国制限が緩く欧米からアクセスのよい国・地域が選ばれた傾向にあるようだ。

 

そして、日本でも旅行消費額単価の上昇は生じていた。観光庁の公表値から概算すると、訪日外国人の旅行消費額単価は2021年が約491,000円(2019年比+210%)であった。つまり、旅行消費額単価だけに着目するなら、2016年策定の政府目標20万円(=8兆円÷4000万人)は2021年に達成されている。ただし、今後はインバウンド客数の回復とともに旅行消費単価の低い普通の観光客の来日が増加していくため、旅行消費額単価は徐々に減少していくと推定される。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年3月24日に公開したレポートを転載したものです。

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