2022年の世界のインバウンド客数および旅行消費額単価の動向
2022年の各国・地域の旅行消費額単価は、直近の公表値である各国・地域の旅行消費額をインバウンド客数で除して概算できる。最も高い国はオーストラリアの約4,900ドル(約64万円)であるが、2019年比+2%とコロナ禍前の水準に近い。フランス、スイス、ベルギーについても2019年とほぼ同等の水準となっている。
各国・地域の旅行消費額単価が2019年の水準に回帰するなか、2022年の日本の旅行消費額単価は、前述の通り約23.4万円(約1,800ドル、2019年比+24%)と2019年の約16万円を大きく上回っている。日本と同様に、スペインで約1,500ドル(2019年比+62%、約20万円)、米国で約3,400ドル(2019年比+37%、約45万円)なども、旅行消費額単価が2019年対比で大きく上回っている(図表3)。
しかし、オーストラリアや米国と異なり、2023年の日本の観光市場では、「世界の多くの国と同様に、旅行単価の低い普通の観光客が増えていくとともに、日本の旅行消費額単価も下落していく」と考えられる。
しかしながら、「観光客数は2019年の3,188万人水準越え」と控えめにしつつ「訪日外国人旅行消費額単価20万円/人(2019年15.9万円/人に対し25%増)」という政府目標は、旅行消費額単価の低下という流れに逆らい、単価の低下をなるべく抑制しようとする意欲的なものである。
この意欲的な政府目標を達成するためには、外国人観光客を出迎えるホテルやレストラン等の旅行関係業者の観点からすると、今までのサービスのまま、コストアップの分だけ高い値段を設定するという安易な方法ではなく、「観光客を高い水準で満足させるサービスや旅行体験価値を提供し、それに見合ったより高い対価を得る」ことを戦略的に行う必要がある。
2023年の旅行消費額単価上昇には、変化への対応と高付加価値化が必要
2020年と2021年は世界的に旅客数の減少とともに旅行消費額単価の上昇が起こり、インバウンド客を受け入れた数少ない国・地域はその恩恵を受けた。コロナ禍後となる2022年においても高い旅行消費額単価を維持し続けているオーストラリアや米国やスペインなどの国・地域は、コロナ禍後のインバウンド需要に効果的に応えることができていると考えられる。一方、2022年では世界全体では旅行消費額単価は減少し2019年の水準に回帰している国・地域も多い。
日本では、コロナ禍から昨年の夏までは訪日客をほとんど見かけず、日本国内旅行客がメインとなっていた。こうした中で、コロナ禍後となり、ようやくインバウンド客の受け入れが本格化してきている。すでに、外国人観光客の来日で売上が回復し始めた商業施設では、コロナ禍前によく見かけた爆買いはなく、円安を利用した高級品、ブランド品の購入が増加しているなどの変化がみられる。訪日客のニーズが大きく変化している可能性がある。
こうした変化がある中では、訪日観光客数が今後増えていくのをただ喜ぶのではなく、直接的に経営や営業するホテルや店舗などの周辺で、人気の観光施設はどこなのか、どの国の人が多いのか、その国の人はどういう食事や旅行体験を求めているのか等、同じエリアに来訪した訪日客のニーズやその変化を敏感に読み取っていくことが必要になる。
また、ただ客数の回復を自然体で待つだけでは、訪日客のニーズに十分応えられず、ビジネスチャンスを逃してしまうかもしれない。日本の観光業や小売業全体で積極的に対応しないと、世界的な観光客争奪戦で負けてしまい、訪日客の旅行消費額単価は以前の水準に戻ってしまうかもしれない。
日本各地には世界的に競争力のある魅力的な観光資源や優れた食事やサービスが数多くある。こうした素晴らしく魅力あるポイントを外国に向けて有効的にアピールし、訪日客の旅行体験が実際に満足できるものとなれば、円安から円高に戻って多少旅行単価が高くなったとしても、顧客が感じるコストパフォーマンスは良いということになるのではないだろうか。
「高付加価値化」はこうした訪日客の満足の結果として生じるものであって、けっして「コストに応じた対価の設定」で達成するべきものではないと思う。観光関連業界や小売業全体が、今後の訪日客の増加にどのように対応していくか非常に大事な時を迎えようとしている。
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