国債価格の下落は、日銀の債務超過と関係ない
長期金利が上がると、国債の価格は下がります。新しく発行される国債を買えば高い金利がもらえるわけですから、昔発行された低い金利の国債は、誰も買いたがらないからです。長期金利が上がると国債価格が下がる、という点については、拙稿『「われわれ日銀は、これ以上国債を買わないことにした」…日本経済になにが起きるか?』を併せてご参照いただければ幸いです。
しかし、日銀は保有している国債を満期まで持っているつもりでしょうから、満期になれば満額が受け取れるわけで、損をすることはありません。毎期末の決算時に国債を時価で評価すれば債務超過に陥るかもしれませんが、日銀は毎期末の決算時に保有国債を取得価格で評価しているようなので、その心配もなさそうです。
日銀が債務超過に陥るとすれば、短期金利が上がる場合
日銀が債務超過に陥るとすれば、将来短期金利が上昇する場合です。銀行間の貸し借りをする際の金利がプラスになれば、銀行は日銀に預けている巨額の預金(準備預金と呼ばれます)を引き出そうとするはずです。
日銀がその際の支払い資金を紙幣の印刷で賄うことは超インフレをもたらしかねないので、あり得ない選択肢だと思います。日銀が持っている国債を売却して資金を調達することも考えにくいですね。
銀行間の貸し借りの金利がプラスになっているときには、長期金利も上昇しているでしょうから、長期国債の値段は下がっているはずです。そんなときに日銀が巨額の長期国債を売れば、国債は更に値下がりし、経済への悪影響が大きすぎますし、日銀の損失は巨額なものとなりかねませんから。
そうなると、日銀としては準備預金に金利を払うことで銀行が預金を引き出さないように誘導することが必要になります。巨額の預金を預かっている日銀としては、支払い金利が膨らむわけです。
一方で、日銀の資産は金利ゼロの国債ですから、収入は見込めません。そこで、支払い金利の分だけ赤字となるのです。保有している長期国債が満期になれば、満期に受け取った資金で金利付きの国債を買うでしょうから、赤字はその分だけ減っていきますが、最近買った10年国債が満期になるまで赤字が続くわけです。
実際には、日銀は満期になって受け取った資金で新しい国債を買うのではなく、その分だけ銀行が準備預金を引き出しに来るように仕向けるのかもしれません。かつての準備預金はいまより遥かに少なかったわけですから、準備預金が減っていくことが「正常化」ということになるでしょうから。
日銀の債務超過は、政府が埋めればすむ話
日銀の資本金は小さいですし、過去の黒字分の蓄えも多くないので、赤字が続けば日銀が債務超過に陥る可能性は十分あるでしょう。しかし、それは政府が埋めればよいのです。
たとえば日銀に増資をさせて政府がそれを買えば、債務超過は消えるはずです。政府の借金がそれだけ増えますが、すでに1000兆円ある政府の借金が数兆円増えたとしても、誤差の範囲でしょう。
そもそも、日銀は金儲けのために存在しているわけではなく、日本経済がうまくいくために存在しているのですから、日本経済をうまくいかせるために長期国債を購入し、その結果として損失が出たとしても、それは公共投資による政府の支出と同じだと考えればよいのです。
公共投資は結果として景気がよくなるとは限りませんが、日銀の赤字は景気がよくなったときに発生するものなので、その意味では公共投資による財政赤字より遥かに好ましいものと考えてよいでしょう。
【初心者向け解説】金融政策と景気と物価について
日銀は、銀行間の貸し借りの金利を事実上コントロールしています。景気が悪いときは、景気をよくするために金利を引き下げます。バブル崩壊後の長期低迷期、日銀は景気をよくするために金利の引き下げを何度もおこなったため、現在では銀行間の資金の貸し借りの金利はゼロになっています。
これがゼロでなくなるためには、景気が回復して「金利をゼロでなくしても大丈夫だ」と日銀が判断することが必要なのです。逆に言えば、銀行間金利が上がって日銀が赤字になるのは、日銀自身が景気がよくなったと判断したときなのです。
ちなみに、石油ショックのような輸入インフレでも金利が上がることは考えられますが、現在は輸入インフレなのに日銀は金利を据え置いたままですし、将来仮に輸入インフレを抑制するために日銀が金利を上げるとしても、インフレが収まるまでの一時的なものでしょうから、日銀が債務超過に陥る可能性は大きくないでしょう。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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