(※写真はイメージです/PIXTA)

少子高齢化が進展し、経済的にもかつての勢いを失っている日本。「強い日本を再び取り戻すには、移民を受け入れるしかない!」…そんな対策を声高に訴える識者もいます。しかし、安易な移民の受け入れを行えば、問題が生じると考えられます。どういうことでしょうか? 経済評論家の塚崎公義氏が推察します。

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少子高齢化で「労働力希少」の時代に

少子高齢化により、労働力が希少となっています。労働力不足と呼ぶ人もいますが、不足という単語は否定的な語感があるので、筆者は労働力希少という言葉を使うようにしています。それは、後述するように、労働力は「不足」しているほうが余っているよりはるかによいからです。

 

少子高齢化により、現役世代と高齢者の人数比が変化したことに加え、高齢者の需要が医療や介護といった労働集約的で生産性が向上しにくいものに偏っていることが原因なので、自然体で臨めば労働力希少は当分続くでしょう。

 

ちなみに、労働力不足というのは奇妙な言葉です。「需要と供給が一致するところに価格が決まる」わけですから、正当な賃金(均衡賃金と呼びます)を提示すれば必要な労働者は集まるはずなのです。

 

労働力不足だと感じている経営者がいるとすれば、それは賃上げ不足なのです。「ダイヤモンドを1円で買いたい」と宣伝しても売ってくれる人はいないでしょうが、それを「ダイヤモンドが不足している」とはいわないでしょうから、同じことです。

労働力希少は望ましいこと

労働力希少は、経営者にとっては困ったことかもしれませんが、労働者にとっては望ましいことです。失業してもすぐに次の仕事が見つかるでしょうから。賃金も上がるでしょう。特に、パートやアルバイトといった非正規労働者の時給は大幅に上がるはずです。正社員は賃上げしなくても辞めませんが、パートやアルバイトはすぐに引き抜かれてしまうからです。

 

ブラック企業もホワイト化せざるを得ません。労働力が余っている(失業が問題となっている)経済では、ブラック企業の社員は「辞めたら失業者だよ」という脅しに屈していましたが、労働力希少の経済では「辞めて別の仕事をします」といえばいいだけですから。

 

日本経済にとっても労働力希少はよいことです。アルバイトに皿を洗わせている飲食店が、アルバイト不足から自動食器洗い機を買えば、日本の飲食業界が効率化するでしょう。

 

高い時給の払えない企業から高い時給の払える企業に労働者が移動することも、日本経済の効率化に資するでしょう。非効率企業の経営者には可哀想ですが、だれかががまんしなければならないのですから、効率的企業より非効率企業にがまんしてもらうのは当然ですね。

外国人労働者の受け入れは、労働力希少を緩和してしまう愚策

以上のように、労働力が希少であることは労働者にとっても日本経済にとっても好ましいことであるにもかかわらず、「労働力が不足しているから外国人労働者を受け入れよう」という人が経営者以外でも多いのは不思議なことです。

 

外国人を受け入れることで労働力が希少でなくなれば、失業者は仕事を見つけにくくなるし、非正規労働者の時給は上がりにくくなるし、ブラック企業もホワイト化しなくなるでしょう。

 

「外国人がいないと仕事が回らない現場の現状を考えろ」という人がいますが、外国人がいなければコンビニのアルバイトの時給が上がるだけです。それによってコンビニの商品が値上がりしても、そのぶんは日本人アルバイトの収入増になっているわけですから、コンビニのアルバイトよりいい条件で働いている正社員等々はがまんしましょう。

 

介護の人が足りないのは、介護士の待遇が悪いからです。介護保険料を値上げして、介護士の待遇を改善すればよいでしょう。「介護保険料が上がるのはいやだ。介護は人のためになるやりがいのある仕事だから待遇が悪くてもがまんしろ」などというのは「やりがい搾取」というもので、正論とはいいがたいでしょう。

 

外国人労働者に頼っている工場があるならば、工場を閉じて製品を外国から輸入すればよいでしょう。安全保障に関わるもの等を除き、国内で生産する必要がないものは、輸入すればいいのです。外国人労働者にとって、異国の地で働くより自国の工場で働くほうがいいでしょう。

 

「輸入が増えると一層円安になってしまう」という可能性はありますが、円安にはよい面もあるので、一概に円安が困ったことだとはいえません。そもそも、現在円安になっているのは日本人が海外の資産を大量に買っているからなので、輸入を悪者にする論者には賛成しかねます。

GDPや人口を維持するための移民受け入れは愚策

「日本のGDPを守るためには外国人労働者が必要だ」「日本の人口が減っていくと困るので外国人の移民を受け入れよう」という論者もいますが、GDPを守ること、人口を守ることが目的なのでしょうか。

 

日本のGDPを守ることよりも重要なのは、1人あたりGDPを維持することだと筆者は考えます。人口が10分の1になり、GDPが10分の1になれば、1人あたりのGDPは維持されるので、いまの生活水準は維持できます。それでよいと思います。

 

日本列島に住む日本人が減っていき、10分の1になったとして、減ったぶんをすべて外国人で補うとしたら、それは私たちが望ましいと考える将来の日本の姿なのでしょうか。10分の1の人が広々と国土を使えば、ウサギ小屋より少しマシな家に住めるかもしれないのに(笑)。

 

「数千年後、日本人がゼロになるのを天国で見るのは悲しいから少子化対策をしっかりやれ」というならば賛同しますが、「数千年後、日本人がゼロになっても1億人の外国人が日本列島に住んでいるなら満足だ」とは思えないのですが。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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