(※写真はイメージです/PIXTA)

銀行間で国債が売買されるときの価格は額面通りとは限らず、情勢によって常に変化しています。また、長期金利が上がれば債券の売買価格は下がり、長期金利が下がれば売買価格は上がります。なぜそのような現象が起きるのか、シミュレーションしながら見ていきましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

銀行間の長期資金貸借は、国債売買でおこなわれる

長期資金の貸借が固定金利でおこなわれる場合、その金利(長期金利)は将来の短期金利に関する人々の予想の平均が基本で、それより少し高い所に決まるのが普通です。

 

そして銀行間の長期金利による資金貸借は、長期国債の売買によるのが最近では普通です。長期資金を貸したい銀行は長期国債を購入し、借りたい銀行は長期国債を売却するのです。以上が前回の記事『10年債利回り0.5%へ…日銀「もう、長期金利の押し下げを頑張らない」発言の背景にある〈最近の奇妙な現象〉』の要点です。

 

銀行間で国債が売買されるとき、価格は額面とは限りません。その時の情勢によって時々刻々と変化します。長期金利が上がれば売買価格は下がり、長期金利が下がれば売買価格は上がります。それを以下で説明していきます。

 

ちなみに「額面」というのは、国債が発行された時に国債購入代金として払い込まれた額であり、満期に国債が償還されるときに国債所有者に支払われる金額のことです。

長期金利が上昇すると、昨日発行された国債が不人気に

人々が将来の短期金利に関する予想を変えて、将来の短期金利は上昇すると考えているとします。長期金利は上昇するので、新しく政府が発行する国債の金利は高くなります。そうでないと誰も国債を買ってくれませんから。

 

昨日発行された国債は額面100円、金利1%、期間10年だとすると、100円で買った人は金利10円と償還金100円の合計110円を手にします。今日発行された国債は金利2%だとすると、100円で買った人は金利20円と償還金100円の合計120円を手にします。それならば、昨日発行した国債を買いたい人はいないでしょう。

 

では、昨日国債を買った人が、今日になって資金が必要になったらどうすればよいのでしょうか。それは、昨日買った国債を90円で売りに出せばいいのです。それならば、買った人は20円の利益ですから、今日売り出された国債を買うのと同じことなので、喜んで買ってくれるでしょう。

 

実際にはプロたちはもう少し複雑な計算をしていますが、基本的な考え方は上記のようなものであり、したがって長期金利が上がると国債の価格は下がるのです。

もし日銀が国債を買わなかったら、なにが起きる?

上記を反対側から見ると、債券価格が下がると長期金利が上がる、ということになります。それを理解するために、日銀が国債を買わなかったら何が起きるかを考えてみましょう。

 

日本政府は巨額の財政赤字を大量の国債発行で穴埋めしています。銀行が長期国債を買いたいと思っている金額よりも多く国債が発行されると、国債は値下がりします。そうなると、長期金利が上がるので、政府が新しく国債を発行する時には高い金利を払わなくてはならないのです。

 

場合によっては、政府の借金が膨らむと日本政府の破産を心配して国債を買いたくないという銀行が出てくるかもしれません。そうなれば、長期金利は一層上がるでしょう。日本の場合には、あまり起こりそうもありませんが、外国人投資家に国債を買ってもらわないといけない途上国などでは、そうしたことも起きているようです。

日銀の買いオペで「長期資金の需給」が歪む   

実際には日銀が巨額の国債を買っているので、反対に長期金利が大きく下がり、人々の予想する短期金利の平均よりも長期金利が低くなっています。

 

日銀が国債を大量に買うので、国債の値段が上がり、長期金利が下がった、と考えるのが自然ですが、日銀が巨額の長期資金を供給したので、長期資金の需給が歪んだ、と考えることもできます。

 

日銀が銀行から長期国債を買い入れると、銀行は長期国債の保有のために拘束されていた資金を自由に使えるようになりますが、これは「長期国債を持ち続ける一方で、日銀から長期資金を借り入れた」と考えることもできます。

 

つまり、日銀は長期国債を買い入れることで、直接的には「日本政府に資金を供給している」わけですが、金融市場への影響としては「長期資金を市場に供給している」ということになるわけです。

 

そうなると、日銀の資金供給が巨額になり、市場で長期資金の需要と供給の関係が歪み、長期金利が低下した、と考えてもいいわけですね。

投機家も国債の売買に参戦している

さて、国債を売買しているのは銀行と日銀だけではありません。投機家たちも売買しているのです。

 

長期的に資金を運用する意図はまったくなくても、長期金利が下がりそうだと考える投機家は、銀行から借金をして長期国債を買います。予想どおりに長期金利が下がれば、長期国債が値上がりするので売却して銀行への借金を返します。もちろん、予想が外れて長期金利が上がれば損をしますが、それは投機をする以上当然のことですね。

 

そして、投機をしているのはバクチ打ちだけではないのです。銀行も「長期金利が下がりそうだ」と思えば、長期運用を考えていない資金も投入して長期国債を購入し、「長期金利が下がった時点でその部分の長期国債を売却して、利益を稼ごう」と考えているのです。

 

「日銀が長期国債を大量に購入しているから長期金利が下がっている」というのは間違いありませんが、もしかすると「日銀が大量に買うだろうから長期金利は下がるだろう。自分も買っておこう」と考えた投機家たちも大量に買っていて、それも長期金利の低下に大いに貢献しているのかもしれませんね。

 

本稿は以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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