〈ゼロ金利・ゼロ成長〉がボディーブローのように効いている…日本の銀行「どこもかしこも青息吐息」の苦しい現状

〈ゼロ金利・ゼロ成長〉がボディーブローのように効いている…日本の銀行「どこもかしこも青息吐息」の苦しい現状
(※写真はイメージです/PIXTA)

景気低迷にインフレ、将来の年金不安と、就労者の皆さん、年金生活者の皆さんの多くは厳しい状況に置かれています。もちろん、多くの企業も、そして企業の経営をサポートするする銀行も、この苦境にあえいでいるのです。今回は銀行目線から、厳しい状況を見ていきましょう。元メガバンカーの経済評論家、塚崎公義氏が解説します。

現在はゼロ金利、厳密にいうなら「マイナス金利」

いまは、ゼロ金利時代です。銀行間の資金貸借の金利がゼロだ、ということです。つまり、銀行は金利を支払わずに他行から資金を借りることができるのですが、逆にいえば、預金を集めてその資金を他行に貸しても金利が受け取れないのです。

 

「ならば、預金部門を廃止すればいい」と考える人もいるでしょうが、それは無理なのです。融資先には預金口座を作ってもらう必要があるからです。融資するときや返済を受けるときには、預金口座を持っていてもらった方が便利だ、ということもありますが、融資先の預金口座への振り込みを見ることで、融資先企業の売上高が急減した場合などに気づきやすいからです。詳しくは、拙稿『「ご利用、ありがとうございましたッ!」銀行、ゼロ金利なのに〈一般人から預金を集め続ける〉納得のワケ』を併せてご参照いただければ幸いです。

 

預金の金利は貸出の金利や銀行間金利等と比べ、上がったり下がったりする幅が小さい傾向にあります。したがって、金利が高いときには預金で資金を集めて貸出等をすることで大きな利益を得ることができるのですが、ゼロ金利のときには反対に、預金部門のコストの分だけ赤字になってしまうのです。

 

ちなみに、厳密にいえば現在はマイナス金利が採用されています。銀行が日銀に預金すると、反対に利子をとられるのです。マイナス幅はわずかですし、預金残高が一定水準を超えた部分についてだけ金利を払えばいいので、実際に銀行が日銀に支払っている金利はわずかなのですが、これも銀行にとっては負担となっています。

 

というのは、マイナス金利で預ける金額を減らすため、銀行は融資を増やそうと頑張ります。金利を引き下げて、ライバル銀行から顧客を奪って来ようとするのです。しかし、ライバル銀行も同じことを考えると、お互いに金利を引き下げても貸出は増えず、日銀への預金も減らない、といったことになりかねないのです。

 

余談ですが、ゼロ(マイナス)金利が銀行を苦しめているだけでなく、日銀がゼロ(マイナス)金利政策を採用せざるを得ないような経済状態であることも、銀行を苦しめています。日銀は、景気が悪いから景気をよくしようとして金融を緩和しているわけです。景気が悪いときには金を借りたい企業は多くありませんから。

「ゼロ金利」と「ゼロ成長」に苦しめられ…

ゼロ成長というのは、日本経済の規模が昨年と同じだ、ということです。したがって、一般の企業にとっては昨年と同じ売上高、同じ利益となるわけです。しかし、一般企業が昨年と同じ利益を稼いで、その一部を配当し、残りを銀行借入の返済に用いると、銀行の貸出残高は減ってしまいます。つまり、ゼロ成長だと銀行のビジネスが縮んでしまうのです。

 

銀行は、融資残高を維持するため、昨年より低い金利で貸出をおこない、ライバルから客を奪おうとするかもしれませんが、ライバルも同じことをすれば、貸出金利が下がるだけで貸出金額が増えず、不毛な金利引き下げ競争に巻き込まれるだけかもしれません。

 

経済が成長しているときは、工場建設資金等を借りる企業が多いため、銀行のビジネスも拡大していくのでしょうが、ゼロ成長だと新規に工場を建てる必要がないので、企業は設備投資資金を借りに来ないのです。

 

既存の工場が古くなれば建て替えますが、その資金は前回の工場建設に使われた金額分だけ減価償却がなされているので、企業の手元資金で賄えてしまうのです(初心者向けの説明は後述)。設備機械が値上がりしていれば、その分だけでも新規貸出が発生しますが、設備機械の値段は技術進歩によってむしろ低下気味だといえるでしょう。

 

実際には、減価償却分だけ現金を金庫に入れておくのではなく、それを銀行借入の返済に使う借り手が多いでしょう。設備投資のときに必要な資金を借りて、少しずつ返していくわけです。しかし、多くの企業が毎年順番に設備投資をすれば、銀行としては1社に多額の融資をして多くの会社から少額の返済を受けるので、貸出残高は不変だ、ということになるわけですね。

 

このように、銀行はゼロ金利とゼロ成長に苦しめられています。そこで、投資信託の販売等に注力して手数料を稼ごうとしているわけですね。

【初心者向け】更新投資の資金が減価償却で賄えるワケ

企業が100万円の設備機械を買ったとします。その機械は100万個の製品を作ると寿命になります。その場合、製品1個あたり1円分だけ機械が擦り減ると考えて費用に計上すべきですね。この費用計上のことを減価償却と呼びます。一方、製品の売値を計算する場合も、コストに1円上乗せすべきですね。

 

9円分の材料を使った製品を10円で売ると、1円の機械擦り減りコストを考えて利益は0になります。一方、現金は10円入って9円出て行きますから1円増えます。利益がゼロなのに現金が増えるのです。

 

製品を100万個作って売ると、利益はゼロでも現金が100万円増えます。ちょうど機械が寿命を迎えたときに金庫に100万円の現金が貯まるので、それで新しい機械を買えばいい、というわけです。

 

あるいは、最初に100万円借りて、製品を1個作って売るごとに1円ずつ返済していき、100万個作って機械が寿命を迎えたときに借入がゼロになっている、ということかもしれません。その場合には、新しい機械を買うために再度100万円を借りる、ということになるわけですね。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「幻冬舎ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「幻冬舎ゴールドオンライン」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

 

 

塚崎 公義
経済評論家

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」

 

■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ

 

■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】

 

■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

 

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録