ケーススタディ:利益操作を行った決算書~繊維製品卸売業Z社の事例
利益操作には、利益を大きく見せるものと、小さく見せるものがあります。金融機関からの融資を受けやすくするためや、商取引先の信用状況を維持するために意図的に行われるものは問題です。
筆者の経験では、金融機関用、取引先用、税務申告用の3種類の決算書を作成していた猛者もいました。粉飾は一度するとそれを断ち切ることは難しく、いつかはその行為は破綻するものです。
粉飾の代表的な方法には、売上高操作、売掛金・在庫操作、減価償却費操作などがあります。そして決算書においては、損益計算書と貸借対照表が絡み合って行われます。
利益を大きく見せる操作では、損益計算書において売上高を増やす、販売管理費を減らす、貸借対照表において売掛金・在庫を増やすなどを行います。
利益操作を発見するには、各勘定科目を時系列で並べてみて、売掛金や棚卸資産が急増するなど不自然な点がないかを見ます。また決算分析において利益率・回転期間の数値に注目して、極端な変化がないかを見ます。
その他には、同業他社との水準比較、税務申告書とのミスマッチなどその発見には勘と経験に頼る部分が多いことも事実です。
[図表]の決算書は資産項目の一部と売上高を時系列で並べたものですが、売上高が減少傾向にあるにもかかわらず、売掛金が前期比急増していることがわかります。決算書を見る時は、こうした勘定科目の残高の増減を時系列で調査します。
売掛金増加の理由を社長や経理担当者にヒアリングをしますが、理解できる納得した説明をしてもらえるかが重要です。説明だけを鵜呑みにすることなく、税務申告書の控えや資金繰り表の提出などを求めて、その裏付けを取ることも必要です。
利益操作を発見した場合の対応にも注意が必要です。社長や経理担当者に対して事情を聞くことになりますが、当然のことながら素直に認めるということはありません。
逆に利益操作だと決めつけてしまうことも、なかなかできません。したがってヒアリングには細心の注意が必要ですので、金融機関の担当者は支店長・上司と相談しながら慎重に対応しましょう。
粉飾を見抜く方法に6期分以上、できれば10期分の決算書を時系列で眺める長期トレンド分析があります。
企業の長期的なトレンドは、ほぼ毎年同じようなトレンドで推移します。ところが粉飾をしている決算書は、どこかで長期トレンドに反する動きをします。
そこを詳しく分析すると大抵粉飾の手がかりが見えてきます。例えば業績不振が続いていたのに黒字に転換するときの決算書には、何かしらの粉飾の痕跡がみられます。
黒木 正人
黒木正人行政書士事務所
行政書士・宅地建物取引士・ファイナンススタイリスト