企業が金融機関から好条件で融資を引き出すため等の目的で「粉飾決算」をすることがあります。しかし、どのような巧妙な手口を使おうと、結局は「決算書」から見破られることになります。金融機関で数多くの企業の融資業務に携わった経験をもつ行政書士の黒木正人氏が著書『企業の持続性を見極める 決算書の読み方と業種別のポイント』(ビジネス教育出版社)から、決算書を手掛かりに粉飾決算を見破る方法について解説します。
3つの決算書を用意していたケース
建設会社などでよく見かけますが、売上が毎期大きく変動しているにもかかわらず、毎期黒字ではあるものの少額利益の計上が続いている決算書があります。
建設土木業では、収益の前倒し計上、費用の先送りなどの粉飾がよく行われますが、建設土木業特有の収益基準である「工事完成基準」と「工事進行基準」を工事ごとに使って売上・利益の調整が行われることがあります。
建設土木工事が完成し、引渡しが完了したことをもって売上高・収益・原価を計上する「工事完成基準」によって売上高を計上している場合は、実際に引渡しが完了していないにもかかわらず、操作によって売上高を計上することが可能です。
また工事の進捗状況に応じて、決算ごとに売上高・収益・原価を計上する「工事進行基準」においても、請負金額や進捗状況などの見積もりを操作することにより、売上高を過大に計上することが可能となります。
この粉飾を見破るには、工事ごとの明細表を取り受けて、工事の進捗状況、代金の入金状況、収益の状況を一件ずつ確認するしかありません。
決算書の連続性がないことで粉飾が判明したケースもあります。取り受けた決算書が微妙に前期の決算と継続性がないことに気づき債務者に確認したところ、税務署用・金融機関用・取引先用の3つの決算書を作成していたケースがありました。
いつもは金融機関用の決算書をもらっていたのが、税務署用の決算書を間違って届けたことにより粉飾が判明しました。
一般的に正しい決算書を徴求するコツとしては、税務署の受付印のある申告用の明細書のついた決算書を徴求する「TKCモニタリング情報サービス」で、顧問税理士から直接決算書を入手する方法があります。
黒木正人行政書士事務所
行政書士・宅地建物取引士・ファイナンススタイリスト
1959年2月16日生まれ 明治大学法学部法律学科卒業
1982年4月 ㈱十六銀行入行、事業支援部長、十六信用保証㈱常務取締役
2012年4月 飛騨信用組合入組、常務理事、専務理事、理事長
2021年6月 黒木正人行政書士事務所所長、TACT高井法博会計事務所会長補佐、すみれ地域信託㈱取締役、ミネルヴァ・サービサーシニアアドバイザー、中小企業庁岐阜県よろず支援拠点コーディネーター
・著作
『経営者保証ガイドラインの実務対応に強くなる」(ビジネス教育出版社、2014年)、『マンガ融資渉外キヅキ旅」(2022年)『新しい融資債権管理・回収の進め方」(2020年)『支店長が読む 融資をのばすマネジメント」(2017年)『営業店担当者のための債権回収の強化書」(2013年)『取引先再建のための資金繰り改善アドバイス」(2012年)(以上、近代セールス社)、『〔新訂第2版〕担保不動産の任意売却マニュアル」(2013年、新訂版2011年、 改訂版2008年、初版2006年)『担保不動産と管理・回収の実務」(2009年)『事業承継の相談事例」(2007年)『わかりやすい融資実務マニュアル」(2007年)(以上、商事法務)、『地域の企業再生の実務」(共著・2011年)『債権保全と回収の実務」(2010年)(以上、三協法規出版)ほか多数
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