(※写真はイメージです/PIXTA)

「大切な不動産は、家族みんなで守っていこう」そんな発想のもと、不動産を共有しているご家族は少なくありません。しかし、不動産の共有は、時間の経過で生じた個々人の事情の変化から、最悪は家族関係の崩壊にもつながりかねない、怖いものなのです。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

不動産の共有が生む、家族間の深刻なトラブル

各家庭にとって、不動産はかけがえのない財産です。そのため、全員で共有しようとするご家族も少なからずあります。

 

所有者が亡くなり、遺産分割をする際に、だれか1人が相続するのではなく、相続の法定割合によって相続人全員で所有しようとするのがよくあるケースです。不動産は高額な資産であり、また分割しにくいため、「法定割合で相続すれば公平だ」と思われるのでしょう。

 

また、自宅を購入する場合も、ひとりで購入資金を用意するのは容易でないことから、夫婦、あるいは親子など、家族が共同で資金を出し合って購入することもあります。そのような不動産は、資金を出した割合で権利を登記することになります。

 

このように、相続や購入の場面で「共有名義」とした場合、スタート時は円満でも、その後の個々人の状況や心情の変化により、意見が合わなくなって感情的なトラブルに発展するのも、よくあることなのです。筆者のところにも多く相談が寄せられますが、その時点で対立が激しく、家族間での話し合いが成立しないところまで追い込まれているケースもあります。

 

◆事例1:母親+きょうだい3人で共有の不動産、意見が揃わず売却不能に

藤田さん(50代・女性)は、父親が亡くなった時にアパートを共有で相続しました。母親が2分の1、藤田さんが6分の1、弟2人が各6分の1の法定割合です。

 

父親は遺言書を残していなかったため、家族で話し合いました。母親が自宅を相続することはすぐ決まりましたが、家賃が入るアパートは、弟たちが相続したいと主張してなかなかまとまりません。預貯金はたいして残っておらず、アパートは自宅よりも評価が高く、父親の財産のなかで一番価値があるものだったのです。

 

自宅の評価は2000万円ですが、それに比べてアパートの評価は4000万円で、売るなら5000万円程度になると言われていました。

 

相続のときに売って分ければよかったのですが、母親は売却に反対。売却して現金で分割したい藤田さんとも、弟たちとも意見がまとまらず、申告期限が迫ってきたことから、苦肉の策で法定割合による相続をしました。

 

藤田さんはその後、時間の経過とともに母親とも弟たちとも意見が合わなくなり、共有名義のまま維持したくないと思うようになりました。そのため、自分の名義を母親もしくは弟に売りたいと考えています。

 

◆事例2 自宅を親+兄妹で共同購入したが、兄が結婚することになり…

独身の清水さん(40代・女性)は、父親が亡くなったことを契機に、母親2分の1、清水さんと兄4分の1の割合で資金を出し合い、駅近の便利なエリアに自宅を購入・同居してきました。

 

当時は、兄も、清水さんも独身であり、実家マンションを出てアパート暮らしだったため、実家のマンションを売って戸建てを共有名義で買うという母親の提案に賛成したのです。

 

ちょうど5000万円の築浅の売り物件が出ており、母親は2500万円の現金で、兄と清水さんはローンを借りて購入しました。

 

それから数年後に兄が結婚し、さらに数年後に子どもが生まれたことから、清水さんは、母親と兄から家を出るようせっつかれています。自分の名義がある家なのに、肩身の狭い思いをしているのです。

 

清水さんは、出ていくこと自体はかまわないと考えていますが、返済中のローンだけでなく、新しく住まいを借りる・買うための出費を懸念しています。母か兄に持ち分を買ってもらいたいと考えていますが、快く払ってもらえるとは思えないといい、母と兄を納得させる方法を探っています。

親族間の売買は「甘え」があるため難しい

藤田さんも清水さんも、事情は違えど不動産を共有しているという形は同じです。家族とはいえ、所有者が複数人いるということから、意思決定にも全員の合意と協力がなければ進みません。

 

藤田さんは、母親と弟2人の4人でアパートを共有しています。本来は、所有する割合によって家賃も按分すべきなのですが、家賃を受け取っているのは名義の半分を所有する母親で、子ども3人には分配してくれません。そのため、名義はあるものの、実際の財産としてのメリットがないということになります。

 

このような使用貸借はよくあることで、母親が税務署に申告・納税していれば税務的な問題は生じません。

 

そんな状況にしびれを切らした藤田さんは、そろそろ活用できる財産にしたいと思い、母親と弟2人にアパートの売却話を持ちかけましたが、母親が賛成しません。生活費としている家賃が亡くなるのは困るため、売りたくないというのです。

 

筆者が提携先の税理士とともにアドバイスしたのは、藤田さんの6分の1の持ち分を、母親か、弟に買い取ってもらうことです。アパートの時価5000万円なら、6分の1は833万円となります。

 

清水さんの場合も、気兼ねして住み続けるより、別の場所に住み替えたほうがいいですから、母親か兄に、自分の持ち分4分の1を買ってもらうことができれば問題は解決します。

 

しかし、親族にお金を払うことに抵抗感をもつ人は多く、親族間売買はなかなか難しいのです。

不動産共有の解消方法は「3つ」しかない

不動産の共有を解消する方法としてあげられるのは、

 

①一緒に売る

②共有者が買い取る

③持ち分だけ第三者に売却する

 

主に上記の3つの方法があります。共有者に贈与する、遺贈するという方法もありますが、それでは何も残らないため、今回の藤田さん、清水さんの選択肢ではないといえます。

 

この3つの方法の中で一番、合理的なのは、「①一緒に売る」という方法です。親族ではない第三者に売却する方法で、売れた価格を持ち分で按分しますので、各自の権利分がお金として入ります。売れる価格が時価となり、合理的で公平な共有解消といえます。

 

しかし、不動産がなくなる、住む家がなくなるという事態になるため、これが全員の合意が得られない最大のネックにもなります。

 

不動産を売りたくない事情があれば、次の選択肢は、「②共有者が買い取る」という方法です。このときの買い取る価格の算定が難しいところですが、一般的には流通している時価が税務署に否認されない価格となります。親族だからといって、時価よりもずっと安価で売買すると、差額は贈与の対象となります。

 

少なくとも時価の8割と言われている相続評価で売買しておく必要があるとすると、藤田さんの場合は666万円、清水さんの場合は1000万円が買取価格の基準となります。

 

ところが、親族間でまとまったお金を払いたくないという思い、あるいは払えないという事情から、なかなか話がまとまりにくいのです。藤田さん・清水さんは、そうした状態にあるといえます。

 

もうひとつの方法は、「③持ち分だけ第三者に売却する」という方法です。長年決着がつかないことから、「親族が買ってくれないなら、買ってくれる第三者に売却しよう!」といった気持になるのは理解できます。「共有持ち分が解消できず困っている」という人が増えたことから、買い取りの専門会社もでてきており、最後にはこの方法も致し方ないといえるでしょう。

 

ただし、ほかの共有者にとっては、他人が一部を所有するイレギュラーな形になることから、これまでは「なあなあ」で請求されなかった(払わなかった)家賃も請求されるでしょうし、ほかの持ち分も買い取る提案をアグレッシブに受ける場合もあるなど、いままでの家族間だけではない緊張感も生じることになります。

 

なお、事例の藤田さん・清水さんはそれぞれ、もう一度家族間で話す機会を持つべく、筆者の事務所が間に入り、調整をすることになりました。

 

よかれと思った不動産の共有も、時間の経過とともに家族間に亀裂を作り、最後は関係が断絶しかねないという危険性をはらんでいます。

 

不動産は、できる限り共有しないことを基本とし、それでも共有が必要なら、「共有を解消する出口」も決めておくことが必須だと言えます。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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