(※写真はイメージです/PIXTA)

多くの不動産を保有する資産家高齢男性は、長男に代替わりさせたことで、自由になるお金を取り上げられてしまいます。長女・二女は、父の心配をする一方、父親の資産状況を一切明かさない長男に不信感を募らせますが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

地主の長男・資産家父の相続人は合計4人

 今回の相談者は、ともに50代会社員の佐藤さん姉妹です。高齢となった父親の相続の件で相談に乗ってほしいと、筆者の事務所を訪れました。

 

佐藤さん姉妹の80代の父親は兼業農家で、アパート経営をしながら、農家も続けてきました。父親は地元の地主の長男で、祖父から農地などを引き継ぎ守ってきたといいます。父親自身も、佐藤さん姉妹の兄である長男に財産を継がせるという考えのようです。

 

そのような流れのなか、兄自身も家を継いで土地を守ることを当然と考え、ずっと実家に住み、結婚してからも同居を続けています。

 

佐藤さんと妹は、それぞれ結婚を機に実家を離れています。また、母親は5年前に亡くなっています。将来の父親の相続時には、長男である兄、長女である佐藤さん、二女である妹の3人が相続人となりますが「相続人は多い方が節税になる」との兄の強い要望で、兄の長男である甥が父親と養子縁組をしたため、相続人は4人、基礎控除額も5400万円となっています。

跡継ぎ予定の兄が仕切りまくり、高齢父も涙…

父親は70代後半になってから、賃貸事業や農業などを長男に任せています。また兄自身も、不動産は全部自分が管理・相続するものだと思っているようで、妹たちにもそうした発言をしてきます。

 

「私たちも、兄が家を継いで、不動産を相続することは別に構わないんです。ですが、少しでも不動産のことにふれようものなら、〈お前には関係ない!〉〈人の財産をあてにしているのか、あさましい!〉などと、すぐに怒鳴り散らすのです」

 

「それだけじゃないんです。兄は父に対しても高圧的で、父の預金通帳もすべて取り上げてしまいました。父が病院代や、日用品とかお菓子を買うためにお金が必要だといっても、いかにもイヤそうに渋って、見ていられません…」

 

佐藤さん姉妹は、父親への対応だけでなく、相続についても気をもんでいます。

 

「土地や預貯金を含め、父がどれほどの財産を所有しているのか、相続税がどのくらいかかってくるのか、私たちには見当がつかないのです。それに、私たちだって相続権がありますよね。平等にしてほしいとはいいませんが、ゼロでは納得できません」

 

佐藤さんの高齢の父親も、長男の態度には辟易していて、佐藤さん姉妹に電話で泣き言をいうこともあるといいます。

 

「年取った父が声を詰まらせながら電話してくると、本当につらくて。兄がいないすきに、好物のお菓子を買って家を訪ねることもあります」

兄が秘匿する「父の資産状況」…調べる方法は?

筆者と事務所の提携先の税理士は、佐藤さん姉妹の話を聞き、まずは所有している不動産を確認するよう提案しました。

 

場所がわかれば登記簿で確認できますが、役所の税務課で、固定資産税評価証明書か名寄帳を入手することで、一度に確認できます。市区町村ごとの申請になりますが、所在がわかれば取得することができます。申請するのは原則、所有者本人で、本人が出向けない場合は、委任状を持参するようにします。

 

税理士は、佐藤さんから父親に委任状を用意してもらい、不動産全部の評価をする準備が整いました。

 

その後の打ち合わせの席で、すべての不動産についてウェブ上で確認していきました。

 

佐藤さんと妹は結婚して家を離れましたが、それぞれ子どもが学校に入るときのタイミングで家を建てています。ふたりとも父親が自分の土地を提供するので建ててよいということで、実家と同じ市内に住んでいます。父親名義の土地を貸してもらい、建物はそれぞれの夫が建築費のローンを組んで担保提供もしてもらっています。

不動産の「売却・購入」を整理し、現金を推定

父親は10年ぐらい前に、3カ所の畑やアパートを売却しています。

 

「付き合いのある不動産会社から、生産緑地指定の30年が終了する2022年以降、畑が大量に売りに出されて価格が下落するといわれ、その前に売却しておいた方がいいと勧められたと…」

 

佐藤さんが父親から聞いたところでは、3カ所を6億円以上の価格で売却したようです。その後、あらたに駅に近いテナントビルやアパートを3つ購入しており、借入が4億円も増えています。数字を追うと、こちらはほとんど借り入れで購入しているように見え、80代の父親は事情を把握していないとのことでした。

 

筆者の事務所が、売却時に入った現金と購入時の支出を登記簿の抵当権額から想定したところ、売れた譲渡税と購入の頭金を想定しても3億円以上のお金が残っていると思われます。

「相続時には自己主張を」との提案に深くうなずき…

父親の財産ですが、自宅土地・建物が1億円、賃貸ビルやアパート4棟、畑や生産緑地などあり、不動産は8億円程だと想定されます。預金残を3億円程度とし、借入4億円を差し引きしても、相続税は1億円を超える計算となりました。

 

とはいえ、相続税は現金で払えると判断できますし、現金を佐藤さんと妹が相続し、相続税は家賃収入から分割払いをすることも可能だと思われます。

 

しかし、兄は普段から情報を共有するどころか、佐藤さんと妹には「不動産や相続のことに口出しするな!」と怒鳴るなど、一方的かつ高圧的です。

 

本当なら、父親がいさめて取り仕切ってくれるといいのですが、高齢ということもあり、兄には強くいえない様子。かといって、遺言書を書く気力もないようです。

 

父親が遺言書を用意しないのなら、相続人による遺産分割協議が必要です。兄はいままでどおり、2人の妹に詳細は教えないまま「お前たちに分ける財産はない」「とにかく書類に印鑑を押せ」と高圧的に対応するものと思われますが、相続手続きは、全員の合意のもと遺産分割協議書を作成し、実印を押印・印鑑証明書を添付してようやく完了となるものです。

 

「相続のときこそ、自分たちの主張をするようにしてください」

 

筆者と税理士がそのようにアドバイスしたところ、佐藤さん姉妹も「大丈夫です」と、しっかりうなずいていました。

親族間の調停・裁判は「極力回避」が正解

佐藤さん姉妹は、兄が賃貸事業や不動産を引き継ぐことに異論はなく、ビジネスの侵害をするつもりもありません。もちろん、争いによる調停や裁判は回避したく、相続はできるだけ円満にすませたいと考えています。

 

調停や裁判をしてもなにもメリットはないというのは筆者も同意見であり、佐藤さんの兄の立場を尊重しつつ、現実的かつ円満な相続手続きや遺産分割ができたらと考えています。

 

そのためにはまず、情報共有が必要です。資産状況が不明のまま、円満な相続を行うことはできません。また、佐藤さんの父親は高齢ですが大きな健康不安もなく、相続はまだ先だと考えられます。いまは将来に備え、情報整理と心の準備をしておくことが大切だといえるでしょう。

 

佐藤さん姉妹からは、

 

「現状把握ができて、気持ちが楽になりました」

「相続発生時にも相談に乗ってもらえるとわかり、安心しました」

 

と、それぞれ安堵の言葉を伺うことができました。

 

佐藤さんの実家のように不動産が多くある場合は、資産状況を確認することで相続税の予想額の算出をしておくことが大切です。それらを通じ、現状確認と対策のイメージをつかんでおきます。

 

相続人のうち、だれかが一方的に進めてしまうのはトラブルのもとになります。その点も全員が理解し、慎重に対処する必要があります。
 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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