ゼロ金利なら、銀行同士お金を融通すればいいのでは?
銀行の本業は、預金を預かって貸し出すことです。工場を建てる会社や住宅を買う個人等に高い金利で金を貸し、預金者には低い金利を支払うことで、金利の差が銀行員の給料や銀行の利益になっているのです。
もっとも最近は、金を借りてくれる会社等が少なくなり、借りてくれても低い金利なので、銀行はあまり儲かっていません。企業が借りてくれないので、国債を買ったり日銀に預金したりしていますが、それでは儲かりませんよね。でも、その話は別の機会にするとしましょう。
本稿が論じるのは、ゼロ金利なのに、つまりほかの銀行から金利ゼロで金を借りることができるのに、なぜ銀行は預金を集めているのか? という疑問です。
銀行の窓口には預金担当の行員が大勢いるので給料を支払う必要がありますし、預金通帳の印刷コストもかかります。一層のこと、預金部門を廃止して、必要な資金は他の銀行から金利ゼロで借りてくることにしたらいいと思いませんか?
じつは、それは難しいのです。「融資先の預金口座」「預金客の確保」等の観点から預金部門が必要だからです。
融資先の預金口座が必要→預金部門は絶対必要
銀行が融資をおこなう以上、融資先の預金口座は必要です。貸出をするときに他行の口座に振り込むのは面倒ですし、返済を受けるときに借り手企業に他行から振り込んでもらうのも面倒でしょう。
融資先企業が自行に預金口座を持っていれば、貸出時は預金残高を増やしてやればよく、返済を受けるときは預金残高を減らせばいいだけなので、手間もコストも最小限で済みます。借り手企業にとっても楽なので、預金口座を作りたがるわけです。
借り手企業は預金部門を持たない銀行と取引したがらないので、ほかの銀行に融資先を奪われてしまう可能性が大でしょう。それでは銀行のビジネスが成り立ちませんね。
銀行が融資先に預金口座を作ってもらうことには、もうひとつ大きな意味があります。それは、融資先の状況が把握しやすくなるからです。たとえば融資先企業の売り上げが激減したら、預金口座への振込が激減するでしょうから、銀行は「最近、売上が減っていませんか?」と問い合わせることができるのです。
融資先の売り上げが激減したら、銀行は不安になって貸出を回収するはずですが、激減したことを知るまでに時間がかかってしまうと手遅れになりかねません。とくに、複数の銀行から借金をしている企業の場合、先に異変に気付いた銀行が融資を回収してしまい、自行が気付いたときには倒産寸前だった、といったことも起きかねないので、一刻も早く異変に気づけることは重要なのです。
以上のように、銀行は預金部門を廃止することができません。どうせ預金部門を維持するのであれば、一般の預金者の口座も確保しておきたい、ということですが、一般の預金口座を維持しておくことにも意味はあるのです。
預金口座の確保が銀行の利益になるワケ
預金を集めること自体は、ゼロ金利下では意味がありませんが、顧客に預金口座を作ってもらうことに意味がないわけではありません。預金口座を持ってくれている顧客は、たとえば住宅ローンを借りたり、投資信託を買ったりする際に自行を利用してくれる可能性が高いからです。
銀行側としても、預金口座の動きを見ていると退職金が入金された人を直ちに把握することができ、ほかの金融機関等に先んじて投資信託や保険を売り込むことができるでしょう。上記のように、貸出で儲けることが難しい現在、投資信託等の販売で手数料を稼ぐことが銀行にとって重要ですから、これはありがたいことなのです。
それから、将来金利が上昇したときに預金が大きな収益源となると期待されるので、それまで顧客をキープしておきたい、ということもあります。
銀行預金の金利は、市場金利(銀行間の貸借の金利)に比べて変化しにくい傾向があります。したがって、将来市場金利が大幅に上昇するようなことがあれば、預金で集めた資金を市場金利で他行に貸し出すことによって大いに稼げるようになると期待されるわけです。
金利が上がってから預金部門を再び作ればいい、というわけにはいきません。預金部門を廃止したときに顧客が他行に移ってしまうと、預金部門を再開したときに昔の顧客が戻ってきてくれることが期待できないからです。
儲ける話とは別に、銀行自身の安全のため、という意味もあるかもしれません。「あの銀行は危ない」という噂が流れたとき、一般預金者よりも他行の方がすばやく反応する(資金を回収する)傾向があるので、預金を集めずに他行からの借入に頼っていると、自行の経営が傾いたときに一気に資金繰りが困難になるというリスクを抱えることになるからです。
銀行で「ありがとうございました」といわれると、「ゼロ金利時代に預金しに来る客はありがたいのだろうか」などと疑問に思う人もいるかもしれませんが、銀行側にはちゃんと理由があるのですね。
本稿は以上ですが、資産運用等々は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
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塚崎 公義
経済評論家
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