(※写真はイメージです/PIXTA)

賃貸で論争のタネとなりやすい「水回りの経年劣化」。どこからが借主の負担で、どこからが貸主の負担となるのでしょうか? 本記事では、水回りの経年劣化について過去裁判にもなった貸主負担となるケースを、柿沼彰法律事務所の柿沼彰弁護士が3件厳選して解説します。

水回りの経年劣化について貸主の負担となるケース3件

1.トイレ兼浴室内の排水口から汚水が逆流

1件目にご紹介するケース(東京地判令和2年12月24日)は、配管の経年劣化によりトイレ兼浴室内の排水口から2度にわたって汚水が逆流して溢水する事故が発生し、貸主は、借主の転居費用等を負担することになったというものです。

 

このケースでは、月額賃料は約7万円でしたが、貸主が支払うことになった損害賠償は93万円以上になりました。

 

2.賃貸借契約終了後に返還された建物で漏水が発生

2件目のケース(東京地判令和3年3月25日)は、貸主が、賃貸借契約終了後に返還を受けた建物で漏水が生じていたため修繕工事を行い、借主から預かっていた保証金から工事費用を差し引いて返還したのですが、裁判となり、工事費用は貸主が負担するべきものだとして、保証金全額を返還することになったというものです。

 

このケースでは、建物が築20年以上であるのに、貸主はこれまで一切水回りを確認したことがなく、漏水は経年劣化によるものだと認められました。

 

3.経年劣化により各所から雨漏りが発生

3件目のケース(東京地判平成25年3月28日)は、経年劣化により各所から雨漏りが生じている建物の修繕費用について、一部は借主負担となったものの、多くは貸主負担になったというものです。

 

このケースでは雨漏りが生じた場所ごとに、借主が気づいていたか、貸主に通知していたかが認定され、気づいていたのに通知していなかった雨漏りについては、借主も、修繕費用の一部を負担することになりました。

なぜ前述のケースが貸主負担となったのか?

民法606条1項本文は、「賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負う。」としています。この規定から、賃貸借契約の継続中に、水回りの経年劣化により建物の修繕が必要となった場合には、原則として貸主(通常はオーナー)が修繕を負担する必要があります。

 

また、平成29年に改正された民法621条は、賃借人による原状回復義務の範囲から「経年変化(経年劣化)」を除いています。賃貸借契約終了後の原状回復においても、水回りの経年劣化については貸主負担です。

 

これらの規定は、最小二判平成17年12月16日が示した「建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化または価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料のなかに含ませてその支払を受けることにより行われている」という考え方にもとづいています。

 

もっとも、平成29年改正では、民法606条1項に、「ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない」という但し書きが加えられました。ご紹介した3件目のケースは平成29年改正以前のものですが、借主に雨漏り等を発見した場合には貸主に通知する契約上の義務が課せられていたため、この義務に違反した結果、被害が拡大した部分については、修繕は借主負担となりました。

 

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本記事は『アパート経営オンライン』内記事を一部抜粋、再編集したものです。

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