「老後資産を増やすため」「生活資金のため」「生活にハリを出すため」など、さまざまな理由から定年後も働く人が増えています。しかし、65歳以降も働く場合には、「在職老齢年金」の仕組みについて知っておく必要がある、とファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏はいいます。今回、66歳の谷口徹さん(仮名)の事例をもとに、詳しくみていきましょう。
老後資金を増やすはずが…年金月22万円・66歳男性に年金機構から「年金支給停止」の通知が届いた〈まさかの理由〉【CFPの助言】
“普通の年金生活”を送る谷口さんが、「再就職」を決めたワケ
谷口徹さん(仮名・65歳)は、同い年の妻・和恵さん(仮名・65歳)と2人で暮らしています。徹さんは長年、電気工事士として働いており、夏の繁忙期には土日を返上して勤務することもしばしばありました。
そんな忙しい現役時代を送ってきた徹さんですが、このたび65歳で定年を迎え、1,000万円の退職金を受け取り退職しました。以前から「退職後は趣味の釣りを思う存分楽しむぞ」と決めていたため、新しい釣り竿選びにいそしむ毎日です。
妻の和恵さんは専業主婦として、夫の繁忙期にも体調を崩さないよう配慮した料理をつくるなど、献身的に家庭を守ってきました。現在の趣味は英会話で、週に1度、近くの英会話教室でレッスンを受けています。
65歳以降、谷口さん夫婦が受け取っている年金額は徹さんが22万円(老齢基礎年金6万8,000円+老齢厚生年金15万2,000円)、和恵さんが老齢基礎年金6万円の合計28万円です。そのほか、先述の退職金1,000万円と、貯金が300万円あります。
一方、現役時代にまずまずの収入があったことから、支出は月に31万円ほど。夫婦で28万円の年金収入となると毎月3万円程度の赤字ですが、徹さんは「1,300万円も資産があるのだから、問題ないだろう」と考えていました。
“もう一度力を貸してほしい”…会社の求めに応じ、66歳から「再就職」することに
その後、のんびりとした年金生活を楽しんでいた谷口夫妻でしたが、ある日以前の勤務先から連絡が入りました。聞けば、「退職者が出たせいで人手が足りず、もう一度徹さんの力を貸してほしい」というのです。
悩んだ徹さんでしたが、和恵さんにも相談し、再度働くことを決意しました。
むしろ2人は、徹さんが再就職できることを大変ありがたく感じていました。実は定年後、趣味や旅行、車の買い替え、自宅の修繕などで出費がかさみ、1,300万円あった資産が900万円まで減少。そのため、今後の老後生活が心配になり、どうすればよいか悩んでいたところだったのです。
給与面についても45万円と満足のいく条件が提示され、徹さんは「これで老後の資産を増やせる」と前向きな様子でした。