インフレ率に影響をおよぼす「3つ」の要因
中世末期以降のヨーロッパは、物価の厳しい上昇局面を4回ほど経験しています。小麦価格やエネルギー価格を参考にみると、1回目が13世紀~14世紀にかけて、2回目が16世紀、3回目が18世紀、そして4回目の20世紀が上昇局面にあたります。
物価の上昇にはさまざまな要因が考えられますが、主たるものとして「人口要因」「貨幣要因」「エネルギー要因」が挙げられます。
1.「人口要因」
まず「人口要因」についてです。13世紀から14世紀にかけてなど、人口が増加する時期に物価上昇局面を迎えていることが見て取れます。単純化して考えると、モノの需要が供給を過度に上回るとき、物価上昇は加速します。
人口が増加したり、生活水準が向上したりすれば、モノやサービスの需要が多くなるはずです。そのため、人口増加期や中産階級の人口が増加する時期には、物価が上昇しやすくなります。
反対に、人口が減少する時期には需要が減少し、物価は下落する傾向があります。実際に、14世紀や17世紀といった人口減少期は、物価下落局面(賃金は上昇したものの地代は低下)になっています。14世紀は、疫病であるペストの流行により、ヨーロッパの総人口が大幅に減少した時期としてよく知られています。
しかし、人口増加(減少)と物価上昇(下落)に、一対一の強い相関関係を認めることは難しいようです。
たとえば、19世紀は人口減少期ではなく、人口増加期でしたが、物価水準では下落基調がみられました。この時期は人の移動が活発化しており、農村から都会へ、そしてヨーロッパから新大陸へ向かう移民などの影響が大きかったのかもしれません。
農村から都会への人口移動は、より安い労働賃金での生産が可能になり、製品価格の上昇を抑制することになります。また、そのヨーロッパなどの体制に組み込まれない人々が
、米国をはじめとする新大陸へ移民として流出したことで、生活必需品の需要拡大が抑制されたとみなすこともできます。
2.「貨幣要因」
続いて、2つ目の「貨幣要因」についてです。16世紀など、貨幣が増加する時期においても物価上昇がみられます。単純化すると、カネの供給がカネの需要を過度に上回るとき、物価上昇は加速しやすくなります。
経済活動の規模であるモノの需要に比べて、大量のカネが供給されたら、カネの「ありがたみ」が低下するはずです。一方、カネという物差しでモノを見れば、逆にモノの「ありがたみ」は高まるはずです。これは”カネよりもモノを高く評価する“ということに他ならず、物価は上昇します。
16世紀には、中南米からヨーロッパに銀が大量に流入しました。銀はコインの材料であり、貨幣の鋳造が増え、物価が上昇したのがこの時期です。
そして、1970年代には、米ドルと金との交換が完全に停止される「ニクソン・ショック(1971年)」が発生しました。為替市場が変動相場制へ移行したことで、各国・各地域の金融政策の裁量が増した結果、貨幣の供給量が増加し、物価上昇の要因のひとつになりました。