インフレ率を2%にするには「失業率上昇」も辞さない
米連邦準備制度理事会(FRB)は、今月3日に公表した金融政策報告書のなかで、「労働市場の需給は極端に引き締まったままである」、「インフレ率を2%に戻すには、トレンドを下回る経済成長率の期間がしばらく続くことと、労働市場の状況が幾分軟化することがおそらく必要だろう」と記しています。
ポイントは、①「極端」に引き締まっている、②「軟化」が必要、と認めたことです。言い換えれば、FRBは「失業率が上がると確信できるまで」引き締めを続ける必要があるとの認識を持っています。そして、[図表1]に示すとおり、失業率が上がるときは、ほとんどすべて景気後退です。
FRBは、「毎度おなじみ」の「オーバーキル」(→引き締めしすぎて景気後退に向かう)をメインシナリオとして据えはじめているのでしょう。引き続き、十分な分散投資を心がけたい局面です。
政策金利…ターミナル・レートは「5.5~6.0%程度」
さて今回は、今後の米国金利の動向について考えます。
考え方には順番があります。「インフレ→政策金利→2年金利→10年金利」の順番で考えます。なぜなら、インフレしだいで政策金利の打ち止め水準が決まり、2年金利は政策金利を見て動き、10年金利は2年金利との差・スプレッドに「限界」があるためです。
まず、[図表2]に示すとおり、現時点で、金融市場は5.5%程度までの利上げを織り込んでいます。利上げの打ち止め水準は「ターミナル・レート」と呼ばれています。
「ターミナル・レートがいくらか」を考えるためには、インフレの水準を考える必要があります。その理由は、「金融政策の標準的な理論になじみのある、米国の金融政策担当者なら、インフレを超える水準にまで政策金利を引き上げたいと考えるはず」だからです。
現在、上昇が続いているために「問題になっている」のは、[図表3]に示す「サービスのインフレ率」です。直近1月が5.7%(前年同月比)です。FRBは、いまだコントロールされていない「サービスのインフレ率」を「目先のターゲット」と考えても不思議ではありません。
今後の「サービスのインフレ率」を考えると、[図表4]に示すとおり、過去は、「財のインフレ率」が「サービスのインフレ率」に先行して動いており、その「財のインフレ率」はもう半年程度、鈍化が続いています。また、「サービスのインフレ率」の大部分を占める「賃金のインフレ率」もすでに8ヵ月程度、鈍化が続いています。
楽観的かもしれませんが、ラグ・時間差を考えても、サービスのインフレ率は、今後数ヵ月以内に(いったんは)鈍化に転じるように思えます。だとすれば、「サービスのインフレ率」の上限を「(現状の)5.7%から、6.0%程度」と置いても問題ないでしょう。
ここが大事ですが、「サービスのインフレ率」の上限が「5.7%から6.0%程度」ならば、ターミナル・レートを「5.5%から6.0%程度」と考えても無理はありません。
なぜなら、たとえば、今後、現在「5.7%」のサービスのインフレ率が「5.6、5.5、5.4%……」というふうに月を追うごとに鈍化していけば、現在は「4.5~4.75%」に誘導されている政策金利が今後、「5.5%」に到達する頃には、(上がっていく)政策金利が、(落ちてくる)インフレ率を上回っていることが考えられます。
あるいは、今後、サービスのインフレ率が「5.8、5.9、6.0、6.1、6.0、5.9%……」というふうに、6%程度まで上昇した後に鈍化に転じれば、やはり、現在は「4.5~4.75%」に誘導されている政策金利が今後、「6.0%」に到達するころには、(上がっていく)政策金利が、(落ちてくる)インフレ率を上回っていることが考えられます。