いまだにPHSを利用…進まない医療機関のスマホ導入
かつてポケベルで行っていた医療従事者の意思疎通ですが、2000年前後にPHSに代わりました。しかしあれだけ普及した公衆PHSも2023年3月に停波となり、その役割を終えようとしています。
ところが、病院内では医療従事者がいまでもPHS端末を使っているのを目にする機会も多いのではないでしょうか。これは構内PHSと呼ばれるもので、病院内に小型の基地局(PHSアンテナ)を設置して、院内のコミュニケーションに利用しています。ほとんどの病院職員はプライベートでのスマートフォンの利用価値を認識しているなかで、病院でのスマートフォン活用を望む声が多く上がっています。
しかし、病院におけるPHSからスマートフォンへの切り替えは、構内電話交換機(PBX)やナースコールの切り替え、ネットワークの構築など多大な追加コストが掛かる、セキュリティへの懸念がある、などスマートフォン導入に消極的な病院が多い現状があります。
しかしながら、医療機関におけるDXの実現への第一歩として、最初にやるべきは病院におけるスマートフォンの導入だと筆者は考えています。PHSに比べて使える機能が豊富で拡張性も高いスマートフォンへ切り替えると、図表4に示すとおり、やれることが格段に広がっていくからです。
スマホ導入により「病院全体」のDX実現へ
スマートフォン導入の効果について、看護師と医師とのコミュニケーションの質的変化を例にとって考えてみましょう。現状、緊急・重要な事項も、不急の業務もすべてPHSの通話だけで調整しているとすれば、お互いにかなりの負担になってしまいます。
そこで、たとえばスマートフォンにビジネスチャット機能を加え、自由自在にテキストや画像のやりとりができるようにすれば、診療の意思決定のかたちも大きく変わるのではないでしょうか。
また、音声入力がすでに実用レベルにあることも見逃せません。スマートフォンを導入すれば、医療従事者によるキーボード入力の時間を大きく短縮することも期待できます。実際に、あるケアミックス型病院のリハビリ部門では、カルテ記載を音声入力していて、キーボード入力の時間を半減させたという事例もありますし、放射線部門の画像読影などはほとんど音声入力でやっている医療機関もあると聞きます。
もっとも、いきなり全職員を対象にスマートフォンを導入するハードルが高いという場合も多いでしょう。そこでBYOD(Bring Your Own Device)を導入する病院もあります。個人が私物として所有しているスマートフォンをセキュアな環境にして、個人情報をも含む業務に使えるようにするのです。ふだんから使い慣れたデバイスを業務に使えるメリットは大きいでしょう。
あるいは、部署ごとに1台導入したり、管理職だけで試験運用してみたりというスタートの仕方でもよいと思います。まずは組織としてスマートフォン導入に着手して、病院業務や「働き方改革」での可能性の広がりを感じてもらい、職員の意識や行動変化を確かめてみてはどうでしょうか?
これまで病院でのデジタル化は診療系に偏ってきました。しかし社会全体でDXが進み、院内だけではなく院外との連携が期待されている状況では、いったん診療系への追加投資を緩めて、組織全体のシステム整備を優先するほうが、結果的に病院DXを早める可能性が高いと考えます。
病院内部でのコミュニケーションの円滑化や、病院外部との診療連携、患者サービスの向上により、診療の質・安全も変化するでしょう。こうした病院DXを進めて行く先に、患者さんや地域住民の皆さんに信頼される地域のインフラとしての医療機関のあるべき姿がみえてきます。
小西 竜太
エム・シー・ヘルスケアホールディングス株式会社
上席執行役員CSO 兼 CMO
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