株式譲渡の方法と対価
非上場の中小企業が株式譲渡を実施するときには『相対取引』で行われます。相対取引の特徴や、売却価格の決まり方を見ていきましょう。株式譲渡で売り手が得る利益に課される税金についても確認します。
相対取引とは
相対取引は、株式の売り手と買い手がじかに行う取引です。株式市場へ上場していない中小企業の株式は、市場での取引ができないため直接売買するほかありません。
市場価格がないため、複数の株主がいる場合、取引価格が個別に異なる場合もあるでしょう。ただし手続きの簡便さの確保や、不公平感による株主からの不満の噴出を避けるため、通常は全ての株主から同一の株価で買収します。
バリュエーション、交渉で価格が決まる
市場価格がない非上場会社の株式は、『バリュエーション』と『交渉』で価格を決めます。バリュエーションとは企業価値評価ともよばれ、M&Aの初期段階で価格の目安を提示するために行われるものです。
企業価値評価には『時価純資産法』や『DCF法』『類似会社評価法』など、さまざまな手法があるため、企業の状況や業種によって適切な手法を組み合わせて実施します。
ただし企業価値評価により算出される価格は、あくまでも目安です。実際の価格は売り手と買い手の交渉で決まります。買い手が正確に買収価格を見積もれるよう、強みや魅力などのメリットを提示するとともに、簿外債務といった不利な情報も正確に開示しましょう。
売却益にかかる税金
株式譲渡で発生した売却益には税金がかかります。売却によって得た収入から、取得費とM&Aにかかった費用を差し引いたものが売却益です。株主が経営者であれば、取得費は創業時に出資した資本金を指します。
この場合、経営者が売却益を得るため、約20%の税金を納税しなければいけません。また株式を所有しているのが会社の場合、売却益には事業で得た利益をはじめ、会社のその他の利益を合算し、法人税が課されます。
非公開会社の株式譲渡の手続き
会社の許可なく株式を譲渡できない非公開会社の株式譲渡では、株式譲渡契約書を結び、取締役会や株主総会で承認を得て、株式名義を書き換えなければいけません。それぞれの手続きについて、詳しく解説します。
株式譲渡契約書の締結
売り手と買い手の双方が株式譲渡をすることに合意したなら、『株式譲渡契約書』を締結しましょう。契約書に記載する内容は以下が代表的です。
・株式の譲渡
・株券の交付
・譲渡承認を得ること
・株式名義書換請求への協力
・表明保証
中でも注意が必要なのは、表明保証です。条項を設けることで、法令違反や契約違反をしていないことを、売り手が買い手に保証します。
保証した内容が虚偽だと発覚した場合には、買い手から損害賠償請求を求められるかもしれません。表明保証の内容をよく確認し、リスクを負えないと判断したなら、買い手へその旨を説明し内容の調整が必要です。
取締役会、株主総会による承認
非公開会社の株式譲渡は、株主の意思だけでは決められません。買い手に株式を売却することの承認を、株主が会社に求める必要があります。
請求時には『株式数』『買い手の名称』『不承認の場合に対象株式の買取を請求する場合はその旨』を会社へ通知しましょう。取締役会が設置されているなら取締役会で、なければ臨時株主総会で承認・不承認を決めます。
株式名義書換請求
取締役会や臨時株主総会で買い手への株式譲渡が承認され、実際に譲渡されたら、買い手は会社に対し『株式名義書換請求』を行いましょう。会社は法律上問題がなければ請求を拒否できないため、株主名簿に買い手の名称が記載されます。
これにより買い手は正式に株式の所有者となります。株主になったことを証明する『株主名簿記載事項証明書』の交付請求も可能です。