バブル崩壊以後、もっとも高くなったエンゲル係数
日本という国では消費税が上がり、物価が上がり、実質賃金は下がり続けている。日本では、2014年貧困家庭の子供の割合が増加し続け16・1%、6人の子供のうち1人が貧困に陥っている。私が何かがおかしくなっていると感じる所以である。
2015年5月8日の発表によると、日本では2014年度の平均でエンゲル係数が24・4%と21年ぶりの高水準となった。
もともとエンゲル係数とは、ここ10年間ほど22~23%台で推移してきたのだが、アベノミクスの影響で24・4%に跳ね上がったのである。これは、バブル崩壊でサラリーマンの収入がガタ減りした1993年以来の悪い水準。アベノミクスの円安のせいで食料品、物価そのものも上昇。消費税増税とダブルパンチを受けたことが要因だ。
日本の現状は、表面に施されたクロムメッキの輝かしさと、内部に組み込まれた金権政治の腐敗と企業倫理の退廃は、かつてローマ帝国の衰退期で鋳造された硬貨を想起させる。
ローマ帝国が崩壊する一因にもなった通貨の希釈
ローマ帝国のコインは、ジュリアス・シーザーによって紀元前46年に、自らの顔をかたどった金貨が作られたところから、実質的には帝国内に広まっていった。そして、その後を継いだアウグストゥス皇帝のとき、つまり紀元前23年に、銅貨及び亜鉛貨、そして銀貨、金貨が統一的に制定され、このローマ帝国のコイン・システムが、その後300年にわたって基本的には維持されることになったのである。
ローマ帝国がコインを鋳造するためには、その帝国の領域を拡大し、新たに取得した領土から金銀を略奪してくる必要があった。
ところが、ローマの軍事力をもってしてもそう簡単に領域拡大ができず、侵略した国からの財物、金銀の押収がままならない状況になってくると、領域から徴収する税金だけでは帝国の予算をまかないきれない状態に陥った。
そこでどうしたかというと、あの有名なネロ皇帝は、紀元64年に何とアウグストゥス皇帝が定めた金貨に含まれる金の量を4・5%減らし、銀の量を11%減らすということにした。
ネロの後の各皇帝たち、コモダス、セプティマス、セベラス、カラカラなどの皇帝は、どんどんと金と銀のコインに含まれる量を減らしていき、遂には銀貨というのは名ばかりで、ほとんど銀が含まれていない銀貨を鋳造するようになってしまった。
一説によれば、1~2%の銀しか含まれていないものを銀貨と称する事態にまで至ってしまったのである。
今の日本とまさに同じ状況である。日銀のお札は、大量の国債という負債のせいで、その価値がどんどんチープ(円安)になっている。
それで、ローマの庶民はどうしたかというと、ネロ皇帝以降のローマ皇帝に払う税金はできるだけ新しいメッキ・コインで払い、自分たちの手元すなわちタンス預金にはできるだけ古い時代の金銀の含有量の多いコインを残すという自衛策に雪崩れ打ったのである。ここも今の日本の状況に非常に似ている。
人々がタンス預金をするようになったということは、その国の金融システムを人々が信用しなくなったということなのだ。銀行や郵貯にお金を預けておくと、銀行や郵貯の抱える大量の国債のせいで預貯金が戻ってこない恐れを感じ取っているからなのだ。
国家が国民の預金を奪うことは、歴史的に何度も起こっている。それこそが、この本のテーマなのである。オレオレ詐欺で何千万という被害が出るのも、それだけのタンス預金がなされているからなのだが。
このように、税収不足を賄うためにローマ皇帝がいわゆるチープマネーを鋳造したことによって何が起こったか?
通貨を作りすぎたために通貨の価値が下がる=インフレが起こったのである。これがローマ帝国崩壊の一因になった。
金銀の含有量に反比例するように物価は上がっていった。じつは、含有量と同じような比率で物価が上がったのではなく、物価の上がり方はその2倍、3倍というレートで上がっていったのである。物によっては物価が10倍になるという日常生活品まで見られるようになったのだ。
やがて私は疑い始めた。
かつてのローマ帝国で行われたのと同じ詐術、真の価値を持っていたはずの貨幣の希釈が、じつは今日もとくに先進国で、なかんずく日本で進行しているのではないかと。