今回は、過剰な国債の発行が急激なインフレを招くリスク等について見ていきます。※本連載では、元通産省官僚で現在は国際弁護士として活躍する石角完爾氏の著書、『預金封鎖』(きこ書房)の中から一部を抜粋し、著者が想定した「最悪のシナリオ」を通じ、日本の危機的状況を考察します。

過剰な国債発行が招くハイパー・インフレ

国家が過大な赤字国債を強迫と詐術で発行した挙句どうなるかは、第1次世界大戦後のドイツ・ワイマール共和国が示している。ハイパーインフレ(物価暴騰)がワイマール共和国民を苦しめ、紙幣で燃料を買うより、紙幣を燃料に使ったほうが安いという状態が生まれた。

 

1980年のラテン・アメリカのインフレも、ラテン・アメリカ諸国の政府が抱えた負債から起きたものである。一刻でも早く給料を食料に代えなければ、1時間後には食料品の値段が上がっているというほど、ひどいインフレが襲った。同じことが2006年のアフリカのジンバブエでも起こっている。

 

ハイパーインフレになると、国債を大量に国民に持たせた政府は額面100円の国債を何十年後かに満期になってもインフレで物価が100倍になっていれば実質1円払えば良いということになり、99円は政府が国民の財産を奪ったことになる。インフレは国債の価値をインフレ率の分だけ奪っていくのだ。

 

過剰な国債発行による経済の破綻の際には、つながり合う特徴がある。

 

政府の過剰な負債

通貨価値の下落

物価の上昇

金利の上昇

ひどいインフレ

 

である。その最終的な結末は、貧困である。1980年代のラテン・アメリカで起きたことであり、今日ではアフリカにおいて、ギリシャやウクライナにおいて政府の負債が人々を犠牲にしている。こうした国々は、高い利子の支払いのために干上がってしまった。日本でも円の下落→物価の上昇のところまで来ている。日本で次に起こることは金利の上昇、つまり手のつけられないインフレである。

 

ギリシャでは、2012年2月の2年物国債の金利が、177%という信じられない数字になった。これは額面100ユーロの国債が10ユーロぐらいでないと買い手がいないということだ。2009年にギリシャは1・78%で国債を発行できていたから、金利が100倍になってしまったということだ。

 

アメリカ政府について言うなら、すでに莫大な金額のアメリカ国債が発行されており、税収不足とアメリカ国民の貯蓄率のマイナス化から考えても、財政はもはや手の付けられないところに来ている。

 

政府の財政構造を見ると、失業保険、生活保護、年金などの社会保障費や医療費の支出が、歳出の重要な部分を占めている。アメリカは世界の警察官だから、軍事費は予算の17%もある。イラク、アフガンから撤退し、警察官の役割を軍事力強化に熱心な日本に押し付けて、軍事費を削減しようとしている。

今後20年でさらに悪化が予測される米国の財政問題

しかし問題は、ベビーブーマー世代がリタイアを始めるという事実だ。

 

アメリカでは、今後20年間で65歳以上の人口が倍になり、65歳以下の人間は15%しか増えないという人口動態変化を迎える。

 

年金の掛け金を支払う人が減り、給付を受ける人が増えるのである。となると、アメリカ政府は以前にもまして国債を発行しなければならない。

 

その年の歳入不足を補う分に加えて、すでに発行した国債の償還の費用も必要となる。借金を返すために借金をするという最悪の事態だ。これを金融の世界では、「金融的自殺」と呼んでいる。

 

日本は、とっくの昔にこの状態に陥っている。

 

ベビーブーマー世代が全て引退する頃には、累積の歳入不足は66兆ドル(7920兆円)に達するといわれている。これはアメリカのGDPの5倍にもなる。

 

このギャップを埋めるには、2つに1つの道しかない。

 

税率を2倍にするか、あるいは今アメリカ国民が享受している社会保障費、医療費を3分の1にカットし、世界の警察官の役割を太平洋では日本に、大西洋ではNATOの他のメンバー国に押し付けて軍事費も大幅にカットするかである。

 

同時に、ある程度中国のやりたい放題を認めるしかないと割り切ることだ。こうしたことを計算に入れると、2006年時点ですでにアメリカ政府は破産状態にあった。

 

ジョージ・W・ブッシュは、ジョージ・ワシントン初代大統領から数えて全ての大統領の時代に生まれた負債よりも大きな負債を、たった1人で発生させた。

 

その原因は、彼の始めたイラク・アフガン戦争である。戦費調達のため、アメリカ政府は大量の国債を発行する必要に迫られ、銀行に適用されるルールを改正した。

 

銀行は貸し出しの焦げ付きに備えて、一定の現金を積み立てておくことを要求されているが、現金の代わりにアメリカ国債を積み立ててもいいとしたのだ。これによって銀行という銀行は、大量のアメリカ国債を買いに走った。

 

アメリカの国債が今まで暴落しなかったのは、日本と中国のような国々がアメリカ国債を止めどなく購入し、ドルの大量出血を補ってきたからである。最近まで、この関係は象徴的なものであったが、今やこの相互のサポートは、アメリカにとって脳死患者の生命維持装置となっている。

本連載は、2015年10月21日刊行の書籍『預金封鎖』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

預金封鎖

預金封鎖

石角 完爾

きこ書房

政府負債額(GDP比)ギリシャ172%、日本246%――日本人が知っておくべき最悪のシナリオ! 各国の預金封鎖の歴史から、私たちは何を学ぶべきか? 本書の狙いの一つは、現在の経済システムの被害者を1人でも救うためにノアの箱舟…

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