家族の死=「遺族年金」が受給できるわけではない
「遺族年金」を知っていますか? 当然にご存じですよね。家族が亡くなり、遺族となったときに受ける年金で、国から支給されるお金です。
では、遺族年金は、家族が亡くなったとき、当然に受けることができると思いますか。
実は皆が受けられるわけではありません。遺族年金にはいくつかの条件があり、そのすべてをクリアしなければ、1円も受けることのできないしくみなのです。
遺族年金のしくみは、知っておいて絶対に損はありません。亡くなってからではなく、元気なうちに知っておくべきなのです。
私は社会保険労務士として、これまで1万人以上の人からの相談を受けてきました。老齢年金や障害年金などの相談もありますが、遺族年金について聞かれることも多いです。そして、多くの人が遺族年金制度について知らないことで、後悔してきた様子をたくさん見ています。
・遺族年金が受けられなかった人
・本来の金額より少ない額の遺族年金を受けている人
あらかじめ遺族年金制度を知っていれば違った結果になったかもしれません。あるご家族の話を紹介しましょう。
役所「遺族年金は支給しない」
「父が亡くなりました」そう話を切り出しだしたのは、50代の女性でした。お父様が亡くなったという悲しみ以上に、怒りを含んだ表情と口調でした。彼女は話を続けます。
「父はこれまで、税金とか、保険料とか、たくさん払ってきたんですよ。なのに遺族年金がもらえないなんて、そんなことあり得ますか?」彼女が苛立っていたのは役所の対応です。父親が亡くなったため、母親の代理として、遺族年金の手続きをしたところ、「遺族年金は支給しない」との通知が届いたというのです。
彼女の父親は長年会社員をしていました。母親は専業主婦として、彼女を含む三人の子育てに専念していたそうです。子煩悩な父、いつも笑顔の母。何でもないけれど、幸せな日常が、そこにありました。
時代が流れ、子供たちは独立し、地元から離れていきました。そして、晩年は夫婦二人で穏やかに過ごしていました。
しかし、穏やかな生活は永遠には続きませんでした。父親が突然に倒れたのです。脳梗塞でした。命に別状はなかったのですが、右半身に麻痺が残り、介護が必要な状態となりました。
母親は、自宅で介護するといいましたが、周囲の勧めもあり、父親は自宅からほど近い施設に入所しました。母親は一人暮らしを続けながら、父親がいる施設に足繁く通い、父親の好物などを持っていくのが日課となりました。
しばらくすると母親に異変がありました。物忘れが増えてきたのです。年をとればよくあることと気にしていなかったのですが、実は認知症の初期症状でした。一人で暮らす母親が心配になった彼女は、母親を呼び寄せ、同居することにしました。
彼女の兄が父親を、彼女が母親を、役割分担して面倒をみる生活になり、両親が直接会うことが難しくなりました。両親は子たちを通して、互いの近況を知るという状態になりました。
そのような生活が数年続いたあと、父親が他界したのです。「父が亡くなれば、母が遺族年金を受けられるはず」彼女は、遺族年金の手続きをするために、役所に行きました。母親が受ける老齢年金額は少なく、生活費は彼女がすべて賄っていました。家計の負担も大きかったので、遺族年金があれば少しは楽になると思っていたのです。
役所では「両親の住民票の住所が違っている」といわれたので、その理由を説明しました。たくさんの書類に記入をして、遺族年金の手続きが終わりました。「あとは、遺族年金が振り込まれるのを待つだけだ。やれやれ」
ところが、数カ月後に、「遺族年金は支給しません」との通知が送られてきたのです。そして、血相を変えて私のところに相談に来た、というわけです。