40年以上一緒にいたのに…
なぜ、母は遺族年金をもらえないのか。父はたくさん税金も納めてきたのに。そして母は長年父を支えてきたのに。
納得がいかないのも無理はありません。「遺族年金は受けることができて当たり前」と思っていたのであれば、なおさらです。遺族年金という制度があることは、誰もが知っているでしょう。
しかし、その実態を知る人は意外と少ないのです。
遺族年金は、いくつかの条件をすべてクリアしなければ、1円も受けることのできないしくみになっています。彼女のご両親のケースでは、まさにクリアできていない条件があったのです。
条件のひとつに、「亡くなった人と遺された人が生計を同じくすること」があります。
本書の中では「生計同一要件」として説明をしていますが、彼女の母親が遺族年金を受けられない原因はここにありました。両親の「生計(=家計)が別々」と判断されてしまったのです。
同じ家で暮らしていなくても、生計を同じくしている家族は多くあります。例えば、単身赴任だったり、このケースと同様に施設に入所しているときもあるはずです。このようなときには、別居していても生計が同じと認められることも多いです。
しかし、彼女の両親のケースでは、いろいろな事情が重なり、ひとつ屋根の下で生活していないことを理由に生計が別々と判断されてしまったのでしょう。
実際に、彼女の両親が直接連絡を取り合ったり、父親が母親の生活費を賄ったりすることは長年ありませんでした。
彼女は納得しませんでした。「40年以上も一緒に暮らしていたのよ。そんなのおかしい」
言いたいことは十分に理解できます。ただ、40年以上もの間、一緒に生活をしていた事実があったとしても、生計同一は、「亡くなった日」の直近に、どのような状態だったかで判断されるのが原則です。
一緒に暮らした長さではなく、亡くなった直近の状態が重要なのです。
「もし、家族が亡くなったら……」と将来のことを考えていれば、このような事態にはならなかったかもしれません。
やむを得ずに離れて暮らすようになったとき、対応方法があったように思います。
ご紹介した「生計同一要件」は、遺族年金を受けるための条件の中の、ほんの一部です。実際には、もっとたくさんの決まりがあります。ちょっとしたことで、遺族年金がもらえなくなる可能性があるのです。