映画『ミリオンダラーベイビー』『コラテラル』が19年前に暴き出していた、デジタル化がもたらす繁栄の陰で進行する「崩壊」とは

映画『ミリオンダラーベイビー』『コラテラル』が19年前に暴き出していた、デジタル化がもたらす繁栄の陰で進行する「崩壊」とは
(※写真はイメージです/PIXTA)

2000年代のアメリカにおいては、デジタル技術が急激に大衆に普及した一方、阻害される人々が発生し、格差社会の拡大の兆しがみられました。それは家族の形や生活様式、そして社会にある種の「崩壊」をもたらしました。NHKエンタープライズ エグゼクティブプロデューサーの丸山俊一氏が著書「アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望」(祥伝社)より解説します。

アメリカに漂う崩壊への雰囲気

2005年8月末、アメリカ南東部を襲った大型ハリケーン・カトリーナ。低地に住む低所得者層が街に取り残され、死者数千人とも1800人超ともいわれる被災を出した。

 

救援活動の初動の遅れは、ブッシュ政権が災害対策予算をカットしていたためだとの批判の声が上がった。

 

誰も、助けてはくれない。見捨てられたような不安を多くの人が感じる中、そうした人々の問いに答えるような作品がこの頃、公開されている。それが『コラテラル11』(2004)だ。

※11『コラテラル』(Collateral) 2004年 監督:マイケル・マン 出演:トム・クルーズ、ジェイミー・フォックス ▶タクシー運転手のマックスは、ある夜ヴィンセントという男を乗せることになる。実は彼は殺し屋だった。彼の標的である検事のアニーを助けようとマックスはヴィンセントに立ち向かう。

 

仕立てのいいスーツを身に纏ったトム・クルーズ演じる殺し屋ヴィンセントと、たまたま彼を乗せてしまったジェイミー・フォックス演じるうだつの上がらないタクシードライバーのマックス。

 

彼は無理やり、殺しの片棒を担がされるはめになる。何度も逃げようとするが、ヴィンセントの仕事に巻き込まれていくマックス。気が気ではない善良なドライバーに殺し屋はとりとめもなく話しかける。

 

「ロスの地下鉄で男が死に、そのまま6時間死人だと気づかれなかった。何人もが隣に座って気づかなかったんだ」

 

物語の終盤で、ヴィンセントの最後の標的が、以前タクシーに乗せ好意を持った女性検事アニーであることをマックスは知る。

 

彼はアニーを助けようとヴィンセントに立ち向かう。虐げられた弱い者が、いつまでも弱いとは限らない。強さを誇る者にも、ある日突然、そこから転落する時がやってくる。

 

ヴィンセントを倒し、アニーを救ったマックス。地下鉄の座席に座ったまま息絶えたヴィンセントに、乗客たちはいつ気づくだろうか。誰も自分の死に気づいてくれない。そのことは他人事(ひとごと)ではない。

 

この時代のアメリカには、どこか常に危うい崩壊への雰囲気が漂っていた。

 

 

丸山 俊一

NHK エンタープライズ

エグゼクティブ・プロデューサー

 

アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望

アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望

丸山 俊一

祥伝社

欲望の正体を求めて。想像力の旅が始まる。 NHK「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」アメリカ編を 完全書籍化 番組では放送されなかったインタビューも収録 理想、喪失、そして分断 アメリカはどこへ行こうとしているの…

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