クリント・イーストウッド監督の批判的な視点
クリント・イーストウッドは一般的に保守派の監督だと見なされます。ただ、彼は単純に保守を擁護するのではなく、そこには常に批判的な視点が込められていて、そこが彼の映画の面白さにつながっていると思います。
例えば、イーストウッドは2006年に公開した『父親たちの星条旗9』と『硫黄島からの手紙10』において、第二次世界大戦を扱いました。
※9『父親たちの星条旗』(Flags of Our Fathers) 2006年 監督:クリント・イーストウッド 出演:ライアン・フィリップ、ジェシー・ブラッドフォード、アダム・ビーチ ▶194 5年2月、アメリカ軍は激戦と呼ばれた硫黄島の戦いに勝利し、摺鉢山の山頂に星条旗を立てた。その生き残りである3人の兵士はヒーローとなったが、本人たちは固く口を閉ざしていた。その一人であるドク・ブラッドリーが倒れたのを機に、息子ジェームズは父の戦友を訪ねる。
※10『硫黄島からの手紙』(Letters from Iwo Jima) 2006年 監督:クリント・イーストウッド 出演:渡辺謙、二宮和也、伊原剛志 ▶1944年6月、新たに師団長に任じられた栗林忠道中将が硫黄島にやってくる。彼は地下に坑道を掘り、最後の一兵となるまでゲリラ戦で抵抗することを指示する。そこへ圧倒的な軍事力を誇るアメリカ軍が上陸し、日本軍は劣勢になっていく。
この2つの映画には、彼なりの解釈で日本側の視点を取り入れる試みをしています。これは、この時期に中東地域でアメリカが行なっていた戦争に対する、一種の抗議表明だったのでしょう。
絶望死の時代
この時代、社会から取り残された人々は決して少なくなかった。
2000年代以降、白人ブルーカラーの労働者たち、特に中年の死亡率が急増したことをデータは物語っている。
アルコールの過剰摂取、麻薬中毒、そして自殺などが死因の多くを占め、将来への希望を失った死。2015年にノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートン博士はそれを「絶望死(Death of Dispair)」と名づけた。
低学歴の労働者階級ほど寿命が短いという衝撃的な事実があるという。
かつて隆盛を誇ったアメリカの鉄鋼・石炭・自動車工業。そして、それを支えた中西部の工業地帯は、産業構造の変化と共に衰退した。
ドナルド・トランプの支持層の多くがいたということで話題となった「ラストベルト」という言葉の通り、まさに錆びついた地帯となっていた。アメリカの産業の中心を担っていた人々の誇りは急速に失われ、中産階級と呼ばれた人々の生活は崩壊していった。
社会の底辺へと滑り落ちてゆく恐怖に、精神的にも蝕まれていったのだ。
すさんだ空気が広がる中、追い打ちをかけるようにさらなる不運が彼らを見舞う。