【その時どうした家康?】まさかの裏切りで九死に一生!信長唯一の撤退戦「金ヶ崎の退き口」

【その時どうした家康?】まさかの裏切りで九死に一生!信長唯一の撤退戦「金ヶ崎の退き口」
(※写真はイメージです/PIXTA)

徳川家康の知られざる大ピンチ。越前・朝倉義景を攻める織田信長が浅井長政の裏切りで戦場から脱出、家康は最前線に取り残されることになります。作家の城島明彦氏が著書『家康の決断 天下取りに隠された7つの布石』(ウェッジ)で解説します。

九死に一生を得た信長の取った驚きの行動

■信長も人間だった

 

浅井長政の寝返りによって戦前の予想は覆され、信長軍は押しに押しまくられて、戦死者は増える一方となった。

 

見かねた家康が信長に、

 

「ここは、いったん退却すべきでは」

 

と進言、決断を迫ったが、信長の返答はなかった。

 

『松平記 』や『三河物語』によると、その後、次のような展開になった。

 

「信長は、家康には何も告げずに27日の宵に撤退、そのことを家康は木下藤吉郎(秀吉)から知らされた」

 

「天下布武」を旗印にする信長ともあろう者が、盟友を置き去りにして戦場から脱出したとは、にわかには信じがたかったが、真実だった。映画、テレビドラマ、小説などで“颯爽とした信長英雄伝説”が浸透しているが、人間信長には、こういう一面もあることを知っておきたい。

 

信長は、京都を出るときから行動を共にしてきた大和の国の戦国大名松永弾正久秀の尽力で、近江の豪族(朽木元綱)の協力を得て、難所の朽木越えをして京に一時避難し、5月21日にいったん近江国の安土城へと帰着したのである。

 

松永久秀は、下剋上を地で行く武将で、主家を滅ぼしたり、将軍義輝を暗殺したり、東大寺を焼いたりしたが、1568(永禄11)年に信長が入京すると降伏し、大和を安堵された。だが、松永弾正は、やがて背いて敗死する。

 

家康の奮戦と殿軍<しんがり>を引き受けた藤吉郎(秀吉)が追撃する朝倉・浅井軍をくい止めていなかったら、信長は、十中八九、戦死していた。九死に一生を得た信長だったが、そんなことで弱気になる大将ではなかった。家康が5月18日に浜松に帰着すると、ほどなく信長から「長政征討軍をまた発出するので、援軍を請う」といってきた。リベンジする覚悟なのだ。

 

■「姉川の戦い」の戦死者

 

6月28日に信長と家康の雪辱戦ともいうべき「姉川の戦い」が決行されると、都にさまざまな噂が流れた。

 

「江州(近江国) 北郡合戦では、浅井長政以下、7000、8000人が討ち死にした。柴田勝家が率いる北郡衆の合戦では、9600人が討死し、集まった首は4800もあるそうだ」

 

「徳川衆や織田衆も大勢死んだようだが、越前衆はもっと多く、5000人が討ち死にした」

 

こうした噂は、信長や家康と面識のあった公卿山科言継の耳にも達したので、翌日の日記(『言継卿記』)に上記のようなことを書き残したのである。

 

激しい戦闘の結果、多数の戦死者が出たことは間違いのない事実で、合戦当日に信長が将軍足利義昭の側近の細川藤孝(幽斎)に送った書状には「野も田畠も死骸計<ばかり>候」とある。

 

では、実際の戦死者の数字はどうだったのか。東寺文書の『東寺光明講過去帳』(光明講で追善供養を行った故人の略歴などを付けた過去帳)によれば、戦死者数は双方で数千人(「越前衆、浅井衆、信長衆、双方討死数千人」)となっているが、1878(明治11)年に設置された参謀本部が編纂した『日本戦史 姉川役』(1901〈明治34〉年5月発行)はもっと低く見積もり、次のような数字を挙げている。

 

「この日の戦い、午前5時に始まり、午後2時に終わる。死者は北軍(長政・義景連合軍)1700余人、南軍(信長・家康連合軍)800余人」

 

先に戦死者について言及する形になったが、この数字から両軍の出兵数を推測できるだろうか。ヒントは、昔の人は「1万石=兵250人」として兵力を石高から弾き出していたことだ。

 

次ページ●織田・徳川vs浅井・朝倉の戦力分析

※本連載は城島明彦氏の著書『家康の決断 天下取りに隠された7つの布石』(ウェッジ)より一部を抜粋し、再編集したものです。

家康の決断 天下取りに隠された7つの布石

家康の決断 天下取りに隠された7つの布石

城島 明彦

ウェッジ

天下人となり成功者のイメージが強い徳川家康。 だが、その人生は絶体絶命のピンチの連続であり、波乱万丈に満ちていた。 家康の人生に訪れた大きな「決断」を読者が追体験しつつ、天下人にのぼりつめることができた秘訣から…

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