【その時どうした家康?】雪辱戦「姉川の戦い」で窮地の信長を救った家康の決断

【その時どうした家康?】雪辱戦「姉川の戦い」で窮地の信長を救った家康の決断
滋賀県長浜市、姉川古戦場跡。(※写真はイメージです/PIXTA)

1570年(元亀元年)、織田信長は自分を裏切り、朝倉義景に寝返った浅井長政を討つべく兵を挙げました。家康は、どんな思いで「姉川の戦い」に臨んだのでしょうか。作家の城島明彦氏が著書『家康の決断 天下取りに隠された7つの布石』(ウェッジ)で解説します。

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「1番合戦」にこだわった家康の覚悟

■家康の覚悟

 

織田信長と徳川家康の雪辱戦ともいうべき「姉川の戦い」が決行される。家康は、どんな思いで「姉川の戦い」に臨んだのだろうか。

 

その話をする前に知っておきたいのは、家康に対する信長の接し方である。家康が援軍として龍ヶ鼻というところへ到着すると、信長は自ら出迎え、手を取って、早々の御加勢を感謝する旨を申し述べたという。かなり気を遣っていることがわかるが、信長はさらに、槍を家康に差し出して、こう告げている。

 

「この槍は、かの鎮西八郎為朝が持っていた業物だ。徳川殿は源氏の正統であるから進呈する」

 

家康は“感激しやすいタイプ”なので、意気に感じただろうことは想像に難くなく、のちのちまで手放さなかったとの逸話が『武辺雑談』にある。

 

姉川の合戦前日の1570(元亀元)年6月27日の軍議の内容と家康の反応も伝わっている。一番詳しいのは『三河物語』で、次のような挿話がある。

 

信長は、明日の役割分担を述べた。

 

「1番合戦(第1陣)は柴田勝家、明智光秀、森右近(忠政。蘭丸の弟)。家康殿には2番合戦(第2陣)をお願いしたい」

 

家康は援軍、いわば客分なので、妥当な人事といえたが、家康は不満を表明した。

 

「是が非でも、第1陣を仰せつかりたい。援軍は援軍に当たるのが筋。朝倉勢と戦う先陣を我ら徳川勢にお任せあれ」

 

信長は、家康の決意のほどがわからなかった。

 

「1番も2番も同じではござらぬか、徳川殿。2番といっても、時により1番になることも多いから、ここはひとつ、2番をお頼み申す」

 

「合戦の流れで、たとえ2番が1番になったとしても、後世の書物には、1番は1番、2番は2番と記されまする。某<それがし>が年寄りなら3番でも4番でも異存ござらんが、まだ30手前の某が加勢仕る以上、末世まで2番と語り伝えられることは迷惑至極でござる。とにもかくにも、1番陣を仰せつけくだされ。そうでなければ、明日の合戦には出陣いたしませぬ」

 

まるで駄々っ子のような言い草だが、家康は死を覚悟して参戦していたのだ。

 

「家康殿の1番は迷惑」と異を唱える者もいたが、信長は「推参者ども、何を知った風なことをぬかす」と一喝、家康の1番陣が決まったと『三河物語』は記しているのである。

 

ところが、『三河後風土記』では、一夜明けた決戦当日の朝になって、信長は家康に使いを送って、こう述べたという。


「昨夜、軍議で決めたものの、わが怨みは浅井長政にあるので、この信長自身が浅井を討たねばならぬ。徳川殿は朝倉を討ってくだされ」

 

そのことを知った酒井忠次(徳川四天王・徳川十六神将の筆頭)は、不満たらたらだった。

 

「わが方の兵はすでに浅井に向かっております。それを今になって急に陣備を変えたりすれば、隊伍が乱れてしまいます」

 

「よいか、忠次。浅井は小勢、朝倉は大勢だ。大勢へ向かうのが勇士の本領ではないのか。ここは、黙って織田殿の仰せに従うのだ」

 

そういって、使いの者を返したという。

 

この挿話からだけでも、家康は「律儀」の上に“度”がいくつもつく人物だったことが理解できよう。

 

次ページ「信長、万事休す」を救った家康の決断

※本連載は城島明彦氏の著書『家康の決断 天下取りに隠された7つの布石』(ウェッジ)より一部を抜粋し、再編集したものです。

家康の決断 天下取りに隠された7つの布石

家康の決断 天下取りに隠された7つの布石

城島 明彦

ウェッジ

天下人となり成功者のイメージが強い徳川家康。 だが、その人生は絶体絶命のピンチの連続であり、波乱万丈に満ちていた。 家康の人生に訪れた大きな「決断」を読者が追体験しつつ、天下人にのぼりつめることができた秘訣から…

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