特別受益を考えない2つのケース
相続人は扶養の範囲の贈与なら特別受益には当たりませんが、その他にも特別受益を考えなくて良いケースは大きく分けて2つあります。
特別受益を検討しなくてよいケース
特別受益に当たらない場合は次の通りです。
・相続人が1人だけしかいないとき
・相続人以外の人に贈与したとき
・複数の相続人がいる場合に誰も特別受益を主張しないとき
・遺言書で特別受益の持ち戻しの免除を明記しているとき
相続人が自分以外に誰もいなければ、特別受益について誰からも主張されることはありません。
また、被相続人から相続人への贈与または遺贈だけが特別受益なので、相続人以外の人が受けた利益は特別受益の対象外です。
例えば、被相続人が生前に相続人とカウントされない孫(被相続人の子供が存命している場合)へ贈与したり、親友に贈与したりしたケースは特別受益の対象外です。複数の相続人がいて遺産分割の内容に満足しているなら、無理に特別受益を主張する必要はありません。
他に「特別受益の持ち戻しを望まない。」と遺言へ明記していれば、原則としてその遺言内容に従います。
相続に関する制度を利用した場合
相続に関する「相続放棄」「おしどり贈与」の2つの制度を利用すると対象外になります。
・生前贈与を受けた後、相続開始後に相続放棄が認められた場合
・一定の条件に合致した夫婦がおしどり贈与を利用した場合
相続人となるべき人が生前贈与を受けたものの、相続の際に相続放棄をした場合は、最初から相続人ではなかったことになるので、他の相続人は特別受益を主張できません。
また、婚姻期間20年以上の配偶者へ居住用不動産または取得用の金銭を贈与(おしどり贈与)した場合、原則として持ち戻しせずに遺産分割を進めます。
特別受益の持ち戻しをした相続の計算方法
ここでは持ち戻しありと持ち戻しなしの場合に分けて遺産分割をシミュレーションしてみましょう。
持ち戻しがある場合
例をあげ、特別受益の持ち戻しをする場合の遺産分割方法についてみてみましょう。
(例)被相続人の遺産3,500万円をその子供の相続人A・B・Cで遺産分割した
・相続人A:被相続人の生前に4,000万円を取得した
・相続人B
・相続人C
相続人Aの受け取った4,000万円は特別受益となり、被相続人の遺産と合算します。なお、持ち戻しするからと言って受け取ったお金を返金するわけではなく、遺産総額にカウントします。
特別受益4,000万円+遺産3,500万円=7,500万円
そして7,500万円を等分します。
・相続人A:2,500万円
・相続人B:2,500万円
・相続人C:2,500万円
ただし、相続人Aの場合は具体的な相続分2,500万円より特別受益分の4,000万円が上回るので、取得できる遺産は0円です。また、実際の遺産は3,500万円なので、相続人B・Cはそれぞれ半分の1,750万円の遺産が得られます。
・相続人A:2,500万円-4,000万円=0円
・相続人B:1,750万円
・相続人C:1,750万円
持ち戻しがない場合
例をあげ、特別受益の持ち戻しをしない場合の遺産分割方法についてみてみましょう。
(例)被相続人の遺産3,600万円をその子供の相続人A・B・Cで遺産分割した
・相続人A:被相続人の生前に4,000万円を取得した
・相続人B
・相続人C
相続人Aの受け取った4,000万円は特別受益ですが、被相続人の遺産と合算しません。この場合は遺産3,600万円を3等分します。
・相続人A:1,200万円
・相続人B:1,200万円
・相続人C:1,200万円
ただし、相続人Aが既に4,000万円を受け取っているので相続人B・Cはそれぞれ1,167万円を取得しますが、相続人Aの場合は贈与された4,000万円も含め5,167万円を受け取ったことになります。
・相続人A:1,200万円+4,000万円=5,200万円
・相続人B:1,200万円
・相続人C:1,200万円
ただし、この事実に関して相続人B・Cから異論がでないならば、本例の遺産分割は有効です。