失敗から得られた、DXの新たなアプローチ
当初の目論見として、RPAが活用できなかったという点では失敗だ。しかし、今までとは違うDXのアプローチを考えられるようになった。
実際、この経験を踏まえて大きな効果を生んだツールがある。中古物件の仕入れ部門に導入した物件情報の管理をサポートするツールだ。
中古物件を仕入れている部門は、仲介業者から送られてくる物件の資料(マイソク)を見て、基礎情報である住所、間取り、設備、その他の特徴などを社内のシステムに入力する。また、その情報を踏まえて、買い取り条件の確認や収支計算を行い、社内稟議を通して仕入れに至る。
部門の月間のマイソク処理件数は3000件にも及ぶ。1人あたりの処理件数に換算すると1日20件、多いときで50件に及び、その作業にかなりの時間を使う。仲介業者からの情報は重複していたり、同一の物件を別の担当者が重複して処理していたりするケースもあった。このような無駄があり、この部門は会社のなかで最も残業が常態化していた。
しかも、その業務プロセスは担当者ごとに違いがあり、モニター上でマイソクを見ながら入力する人がいれば、いったん出力してから入力する人もいる。部門のリーダーであるスギタによれば、平日は遅くまで残業するのが普通で、その状態は仕入れ部門を立ち上げた1年前からずっと続いているという。
この状況を改善するために、DXチームが提案したのが物件情報の入力サポートを行うアプリケーションの開発だった。RPAの導入から1年後に実装したこのアプリケーションは、画像認識によって情報の読み込みと入力をサポートする。社員の入力作業を簡素化するとともに、入力先を一本化することが目的だった。
当初はマイソクの自動読み込みから稟議書の作成までを一気に担うツールを構想した。マイソクを読み込ませるだけで、物件情報が整理され、収益性の見込みまで計算する。社員はその情報を確認し、条件が良ければ上長に仕入れるかどうかの判断を仰ぐ。
マイソクの仕様は資料を作っている仲介業者によって違うため、原本の文字がうまく読み込めなかったり、間取りや外観などの画像をうまく認識できなかったりする可能性が高い。また、中古物件は一つとして同じ条件のものがないため、買い取り条件や収支計算の計算式を一様に当てはめるのも難しい。
その問題を解決しなければあちらこちらでエラーが発生し、確認と手直しによって現場の作業効率が下がるだろう。そうなると先の案件の二の舞だ。
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