(※写真はイメージです/PIXTA)

都内の人気エリアに建つ自宅は、30坪の広さながら1億円の評価です。高齢の母親の世話を行ってきた長女ですが、相続の段になると、長男・二男と考えが合わず、頭を抱えています。どのような選択肢がベストになるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

人気駅から徒歩ゼロ分、30坪の自宅兼店舗

今回の相談者は、50代のパートタイマーの加藤さんです。母親が亡くなり、相続について困っているとのことで、筆者の元を訪れました。

 

加藤さんの母親の相続財産は、都内人気駅前の自宅兼店舗です。30坪とコンパクトながら、不動産の評価は1億円と高額です。父親が存命のときは、両親がここで青果店を営んでいましたが、5年前に父親が亡くなってからは後継者もなく、店を閉めています。金融資産はほとんどありません。

 

今回の母親の相続人は、加藤さん、そして加藤さんの兄と弟の3人です。

 

「父が入院したときも、母が倒れたときも、兄と弟は知らん顔でした」

 

加藤さんの兄と弟は、神奈川県と埼玉県に自宅を構えており、実家からは電車でおよそ1時間の距離です。加藤さんは同じ区内の賃貸物件に暮しているため、両親が大変なときには、たびたび足を運び、病院への付き添いや日常的な世話をしてきました。

 

「父が亡くなったときは、母がすべてを相続しました。それなりの現金もあったようですが、ほとんど生活費に使ってしまったようです」

 

「母は、兄と弟の態度を嘆き、〈頼りになるのは娘だけよ、ありがたい、ありがたい〉と、いつもいっていました。〈財産は全部あなたにあげる〉ともいっていたのですが…」

 

しかし、いざフタを開けてみたら、母親が日ごろから〈いま準備しているところだ〉と繰り返していた遺言書は、どこを探しても見つかりませんでした。

 

「狭くて古い自宅ですが、両親と過ごした家を手放すのは忍びないのです。兄と弟は、〈さっさと手放して、みんなで分けよう〉というのですが、まったく両親の面倒を見なかった2人と同じ金額というのも、正直納得できませんし…」

「俺は長男だが、3等分にしてやるよ」…不遜な兄

そうはいっても、母親は遺言書を残していないため、きょうだい3人で話し合って母親の財産の分け方を決めることになります。

 

「兄は〈俺は長男だが、3等分で譲歩してやる〉という姿勢です。弟は全面的に兄に賛同しています。私は自宅をどうにかして残したいのですが…」

 

しかし、3人で共有するのは、後のことを考えても問題です。しかし、3等分するほど土地の面積は広くありません。

 

「私が実家を相続することはできないでしょうか?」

ひとりで相続するなら、約6千万円の代償金が必要に

加藤さんの実家は立地がよく、もし建て替えるなら、8階程度のビルの建設は可能だと思われます。貸店舗や賃貸マンションにすれば、かなりの賃料収入も期待できるでしょう。しかし、建築費には2億円程度が必要だと想定されます。

 

しかし、実家を自分のものとするには、兄と弟にそれぞれ3,000万円程度の代償金を支払う必要があります。建物の建設費用と合わせ、およそ2億6,000万円の現金が必要です。

 

加藤さんに自己資金があれば問題はありませんが、夫と離婚し、現在高校生の息子と賃貸で暮らしている加藤さんには、とても6,000万円をそろえるのは無理だといえます。

 

代償金を分割払いにして家賃から払う方法も考えられますが、2人が納得するとは限りません。

 

そうなると、無理をして残すより、売却して3等分にしたほうが、問題は起こりにくいといえます。筆者と提携先の税理士は、加藤さんにはそのようにアドバイスしました。

 

どうにかして実家を残したいという気持ちを持つ方は少なくありません。しかし加藤さんの場合、それを実現するには、早い段階で金融資産を準備しておくことが必要でした。

 

現在の状態で実家を残そうとすれば、将来的な無理が生じます。未来の問題を回避するためにも、売却による遺産分割が第一選択肢になるといえます。

 

「仕方ないですね…。とても残念ですが、兄と弟の方針に合わせることにします」

 

加藤さんはそういって頭を下げ、事務所を後にされました。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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