自宅を二世帯住宅に建て替え、父と息子で「区分登記」
今回の相談者は、50代会社員の鈴木さんです。父親の相続で困ったことが起きていると、筆者のもとに相談に訪れました。
鈴木さんは長男で、両親と同居しています。妹がひとりいますが、嫁いで他県に住んでいます。
「私は長男ということもあり、結婚後も実家で両親と同居してきました。当時暮らしていたのは、祖父が建てた古い木造住宅でしたが、15年前、建て替えることにしたのです」
立替当初は、鈴木さんの両親+鈴木さん夫婦とこどもが3人という家族構成だったため、両親の部屋より鈴木さん家族のほうが広い面積が必要でした。
これまでの建物より広くするため3階建てとし、両親は1階、鈴木さん家族が2階と3階を使うことにしてしました。建築会社の勧めもあり、玄関も水回りも別にした完全な二世帯住宅となったのです。
「二世帯住宅が流行りだしていたこともありましたし、融資を受ける銀行の勧めもあって、区分登記することにしました。1階は父親が現金で建てたので父親名義、2~3階は私が銀行融資を受けて建てたので私名義となったのです」
元気だった父が突然死、相続が発生したが…
その後ずっと、新しくきれいな家で、和気あいあいと楽しい生活を送っていました。
ところがその後、80代半ばとはいえ、健康そのものだった鈴木さんの父親が倒れ、突然死してしまったのです。遺言書の準備などは何もしていませんでした。
「父親の財産ですが、不動産は自宅の土地・建物だけで、あとは預貯金と有価証券です。自宅は260㎡で、評価は6,500万円程度。預金2,000万円、有価証券1,000万円、生命保険は非課税枠内でした」
鈴木さんの父親の財産の合計は9,500万円で、基礎控除が4,800万円となります。そのため、課税財産は4,700万円となります。
小規模宅地等の特例、敷地全体に適用できない!?
自宅の土地の評価は6,500万円ですが、小規模宅地等の特例が適用できれば、330㎡まで80%が評価減できます。相続税の申告は必要ですが、申告時に自宅の土地の評価はもとの20%の1,300万円となりますので、財産の総額が4,300万円となり、4,800万円の基礎控除以下の財産評価となるのです。
よって自宅の土地に小規模宅地等の特例が適用できれば、相続税はかからないことになります。
自宅の区分登記で、小規模宅地等の特例はどうなる?
ところが、ここで、問題が発覚します。
同居する人が自宅を相続した場合、330㎡までの土地評価は80%減できる特例があります。自宅の面積は260㎡ですので、全体の80%減できれば、大きな評価減となります。
しかし、建物を区分登記している場合、ひとつの家でもマンションのように「別々の家」という扱いとなるのです。鈴木さんの場合も、建物は父親が3分の1、鈴木さんが3分の2の割合で区分登記をしていますので、父親の家は1階の3分の1だけとなります。
すると、自宅の土地は全体の3分の1となり、3分の2は鈴木さんが父親から借りている土地となります。よって、小規模宅地等の特例も「3分の1の80%減」となるのです。
◆区分登記とは?
「区分所有」とは、建物全体を所有権の対象とするのではなく、建物の部屋(構造上区分された部分)ごとに所有権を設定するものです。分譲マンションをイメージすればわかりやすいと思いますが、建物全体に対して所有権を設定しているわけでなく、部屋ごとに所有権が設定されており、そのような所有形態を区分所有といいます。
区分所有されている建物の登記簿には、「表題部(一棟の建物の表示)」「表題部(専有部分の建物の表示)という記載がある一方、区分所有されていない(単独所有又は共有されている)建物の登記簿では「表題部(主たる建物の表示)」という記載になっているので、違いがわかります。
◆区分登記されてると、法律上は「同居ではない」との判断に!
小規模宅地等の特例は、区分所有されているか否かで異なる取扱いとなります。
結果、たとえ二世帯住宅であっても、区分所有されているものは、小規模宅地評価減特例の適用上、区分所有でない二世帯住宅とは異なる取扱いをせざるを得ない、という解釈になります。
たとえば、内階段がなく、1階と2階が内部で行き来できない完全分離型の二世帯住宅でも、親子は同居しているとみなすことができ、小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)の適用を受けられる一方、1階と2階で区分登記がされている場合は、同居とみなされません。
父の生前に「区分登記の解消」ができていたなら…
建物を区分登記していても、相続前に区分登記を解消し、共有、あるいは一体の登記に変えておけば、二世帯住宅で同居という形を変えることなく、小規模宅地等の特例を土地全体に適用することができたのです。
鈴木さんの件で思い起こされたのが、以前に相談に来られた山田さんという方のケースでした。山田さんも二世帯住宅で同居する長男で、鈴木さんと同様の立場でした。2階建ての自宅の1階を父親、2階を山田さんとして、2分の1ずつ区分登記していましたが、そのままでは父親の相続時に小規模宅地等の特例が自宅土地の半分しか適用できないと知り、父親から建物を買い取って区分登記を解消したのでした。
そこから10年後、山田さんの父親が亡くなったときは自宅土地の全体に小規模宅地等の特例を適用できたので、相続税の申告は必要でしたが、納税は不要になりました。
鈴木さんも、山田さん同様に相続前であったなら、今回の相続税も大きく減額することができたのに残念です。自宅の相続はこれから決めるとのことですが、土地は母親が相続し、建物の鈴木さんが相続して区分登記を解消しておけば、母親の相続のときには、自宅の土地全体に小規模宅地等の特例を適用することができます。
筆者と提携先の税理士は、今回は配偶者の税額軽減を適用して納税を減らし、二次相続までに建物の区分登記を解消しておくことをアドバイスすると、鈴木さんは納得し、
「それでもまだ、節税の方法があってよかったです。今後は、先を見据えて対策を立てていきたいと思います」
といって、筆者の事務所をあとにしました。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。