人口の変化…東欧南欧は減少傾向、西欧北欧は増加傾向
ヨーロッパには様々な国があることが、図表1からわかる。EUの加盟国だけでも、人口51万人のマルタ(MT)と8317万人のドイツ(DE)では163倍の差がある。EUでは民主主義が重視されているが、人口比をそのまま適用させると、ドイツの発言力が非常に高くなり、マルタやルクセンブルク(LU)の意見は無視されてしまう。そこで、EUでは人口比を重視しつつも人口の少ない加盟国の意見を尊重する仕組みが取り入れられている。
2010年から2020年の間にEU全体では1.6%人口が増加しているが、東欧や南欧では人口が減少する加盟国が多く、西欧や北欧では人口が増加している加盟国が多い。人口を維持できる出生率2.1を超えている加盟国はないため、人口増加は移民の流入による。図表2からは、南欧や東欧から人口が流出し、西欧や北欧に流入していることが見て取れるが、より豊かな生活を求める若い世代の人々の移動が活発になっている。
EUでの人々の移動は、加盟国間で人が移動するEU域内移民、日本などEUの外と人が移動するEU域外移民、シリアなどから流入する難民に大別できる。難民も人口増加の要因になっているが、急激な人口増加は住居費の高騰を招き、各国で移民や難民に対する反発が高まっている。
COLUMN ペットパスポート
2013年のペットの非商用移動に関する規則により、EUとEEA諸国では、犬、猫、フェレットのペットパスポートが創設され、飼い主とともに自由に国境を越えることができる。ペットにはマイクロチップを埋め込まなければならない。さらに、アイルランド(IE)、マルタ(MT)、フィンランド(FI)へ入国するためには入国の120時間前から24時間前までに寄生虫(エキノコックス)の治療を受けて証明書をもらう必要がある。
それ以外の動物や植物については、自由に移動できるものが多いが、加盟国により規制が課せられていることもあるため、事前に調べて証明書等を準備する必要がある。日本からペット(犬、猫、フェレット)を連れて旅行する場合にはEUの規則に従った準備をする必要がある。EUでは動植物を使った製品にも規制がある。絶滅危惧種などはアクセサリーなどに加工されていても持ち込みが禁止され、入国時に没収される。禁止対象はEU wildlife trade databaseで調べることができる。
なお、イギリスがEUから脱退したことにより、イギリスの犬、猫、フェレットのペットパスポートは無効になり、ブリテン島(イングランド、ウェールズ、スコットランド)からEUや北アイルランドへのペットの移動時には動物健康証明書が必要になる。
1人当たりGDPの変化…東欧諸国は増加傾向に
1人当たりGDPはEU27カ国平均が100となっているため、100を下回る加盟国は経済発展が遅れているとみることができる。1人当たりGDPには%やユーロなどの単位はない。
EU加盟国の中ではブルガリア(BG)が53と最も低く、ルクセンブルク(LU)が261と最も高い。リヒテンシュタイン(LI)は1人当たりGDPのデータがないが(naはnot available、データがないという意味)、ルクセンブルク並みだと推測される。
ルクセンブルクは人口が少なく1人当たりGDPが非常に高い。この理由の1つに越境労働者の存在がある。1人当たりGDPは、GDPを人口で割って求める。フランス(FR)に住んでいる人がルクセンブルクで働くと、GDPはルクセンブルクに算入されるが、人口はフランスにカウントされる。そのため、ルクセンブルクの1人当たりGDPがより高く、フランスの1人当たりGDPがより低く計算されることになる。ルクセンブルクは人口が少ないために越境労働者の影響が大きく、フランスは人口が多いために越境労働者の影響は少ない。結果として、ルクセンブルクの1人当たりGDPの上昇が目立つことになる。
東欧諸国では、経済成長に伴って1人当たりGDPが上昇している。これをキャッチアップという。その一方で、ギリシャ(EL)、スペイン(ES)、イタリア(IT)、キプロス(CY)などの南欧諸国では、1人当たりGDPが大きく減少している。この背景にはGDPが十分に伸びていないことがあり、ギリシャやイタリアなどは投資不足に悩まされている。
アイルランド(IE)の1人当たりGDPはこの間に60上昇しているが、このうち約40の上昇は2015年にGDPの計算方法を変えたことによる。