ロシア、ウクライナ、ベラルーシなども含めて、ヨーロッパには50の国がある。各国は人口や地理的な条件だけでなく、経済構造もそれぞれ異なる。まずは地図でヨーロッパ各国を確認し、EU(European Union:欧州連合)加盟国を見ていこう。
ヨーロッパ50カ国のうち、EU加盟国は27カ国
ヨーロッパ50カ国のうち27カ国がEUに加盟しており、EUに加盟している27カ国を加盟国(member states)と呼ぶ。図表1の地図で青色とオレンジがEU加盟国であり、青色はユーロに参加している19 加盟国(19カ国をまとめてユーロ地域〈euro area〉※1という)、オレンジはユーロに参加していない8加盟国である。灰色はEFTA(欧州自由貿易連合)に参加している4カ国であり、EUとは密接な関係を結んでいる。緑色はEUにもEFTAにも参加していない国々である。イギリスは2020年1月にEUから脱退した。
※1 モンテネグロ、アンドラ、モナコ、サンマリノはEUに加盟していないがユーロを使っている。ユーロ地域にこれらの地域を加えた領域をユーロ圏(euro zone)という。
1957年の発足以降、EUは加盟国を増やし、協力の範囲を広げてきた。EUの加盟国が増えることを拡大、EUの協力体制が深まることを深化という。当初は6カ国で始まったEUも西欧を中心に加盟国を広げ、1995年には15カ国体制になった。
2004年には中東欧諸国など10カ国が加盟し、EUの地理的範囲が大きく広がった。トルコの南に位置するキプロスはアジアの一部とみなされることもあるが、2004年にEUに加盟している。その後もEU拡大は続き、2013年にはクロアチアが加盟して28カ国体制になった。さらに5カ国がEU加盟候補国として加盟に向けた準備を進めている。一方で、イギリスは2020年にEUから脱退しており、一時的に拡大から縮小へと転換した。
人・物・サービス・資本の「単一市場」を目指す
EUは当初は経済分野の協力を進めていたが、深化が進んだ現在では環境問題や社会問題など幅広い分野に取り組んでいる。経済分野では、人・物・サービス・資本が国境を越えて自由に移動できる単一市場の整備を進めている※2。
※2 単一市場にはEU加盟国27カ国とアイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタインからなるEEA(欧州経済領域)が含まれる。
人の移動については、EU市民は自由に他の加盟国に居住することができ、居住先の加盟国で差別されないという市民の権利が認められている。ポーランド人がドイツに移り住んで住民登録すれば、医療や社会保障などでドイツ人と同じ待遇を受ける。アイルランド、ブルガリア、ルーマニア、クロアチアを除くEU加盟国と、アイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタイン、スイスのETFA諸国がシェンゲン協定に参加しており、これらの国々ではEU域内と同じように人の自由な移動が保証されている。なお、イギリスはシェンゲン協定に参加していない。
物の移動については、EUではすでに関税の無い貿易の自由化が達成されている。関税とは主に輸入品にかけられる税であり、高い関税率は輸入品の価格を引き上げて国内産業を保護するために用いられる。国内製品の価格が20ユーロ、輸入品の価格が15ユーロの場合、輸入品に40%の関税をかけると輸入品の販売価格は15ユーロに関税分15×0.4=6ユーロを加えて21ユーロになり、輸入品よりも国内製品の方が安くなる。
サービスも国境を越えて自由に取引できることになっているが、輸送などの分野では加盟国ごとのルールの違いが残っており、サービス貿易の完全自由化は現在もEUの課題となっている。資本の自由移動とは個人や企業が資金を自由に移動できることに加えて、企業が国境を越えて展開できることを意味している。特に銀行など金融業では自国で営業免許を取ると他の加盟国でも営業免許を取ったことになり、支店などを自由に展開できる。これを金融パスポートという。
図表2は、本書に登場する国々の基本データである。EU加盟国は現地語のアルファベット順に並んでいる。オーストリアは英語表記ではAustriaだが、オーストリア語(ドイツ語)表記ではÖsterreich(エスターライヒ)であるため、オランダ(Nederland)の次に位置している。ギリシャ(Elláda:ヘラーダ)、スペイン(España:エスパーニャ)、フィンランド(Suomi:スオミ)なども英語表記とは異なる場所にある。
国名の右にアルファベット2文字の記号があるが、これはEUROSTAT(欧州統計局)で用いられている略号である。ルクセンブルク(LU)など文字数が多い国名がグラフや図表のスペースを圧迫することから、本連載の図表では2文字の略号を用いる。図表2の人口と1人当たりGDPのデータはEUROSTATのものを用いている。本書ではEUROSTATのデータについては出所を省略する。2文字の略号に慣れるため、これ以降の記事では国名の後に略号をつける。
GDP(国内総生産)は、GDP=消費+投資+政府支出+輸出-輸入で計算され、国の経済規模を表す指標である。GDPは3カ月ごと(これを四半期という)に公表されるが、GDPが前の四半期に比べて増加していると景気がいいとされ、2四半期連続で減少すると不況(リセッション)に陥ったとみなされる※3。GDPは人口が多い国ほど大きくなる傾向にあるため、加盟国間の経済状況を比較する際には、EU平均が100になるように調整された1人当たりGDPが用いられる。
※3 GDP=民間消費+総固定資本形成+政府支出+輸出-輸入であらわされる。総固定資本形成は投資を意味する。企業が工場を拡張する投資を行うと、建設企業や製造装置企業に恩恵が及び、その後は建設資材や部品企業へと波及し、経済の広い範囲に影響を及ぼす。投資の増減は景気変動の重要な要因の1つでもある。詳しくは、川野祐司『これさえ読めばサクッとわかる経済学の教科書』文眞堂、第9講を参照のこと。
COLUMN EUへの入出国
日本からのヨーロッパへの旅行の際にコペンハーゲン(デンマーク)やヘルシンキ(フィンランド)などで乗り継ぎすると、「最終目的地がシェンゲン協定国のお客様はこの空港で入国審査を受けてください」という機内アナウンスが流れる。非常に不親切な案内だが、コペンハーゲン経由でドイツやフランスに行く際には、デンマークで入国審査を受け、ドイツやフランスでは入国審査が不要ということを意味している。
「ドイツへの旅行」ではなく「シェンゲン協定エリアへの旅行」という扱いになるためである。ドイツからオーストリアやチェコなどへ移動する際に国境を越えるが、同じシェンゲン協定エリアなのでパスポートのチェックがない。スムーズに移動できて便利だが、スタンプが増えずに残念かもしれない。
同じ扱いは出国にも適用される。ドイツから出国してコペンハーゲン経由で日本に帰国する場合、ドイツではなくコペンハーゲンが最終出発地になる。免税などの手続きはコペンハーゲンで行うことになるが、ドイツの空港を出発した同じ日にコペンハーゲンから出発する場合は、ドイツでも免税手続きができる。乗り継ぎ地で十分な時間がない場合に利用したい。
川野祐司
東洋大学 経済学部国際経済学科 教授