そもそも「金融」「金融市場」とは?
金融とは、資金が余っている資金余剰主体から資金を必要としている資金不足主体へと資金を流す仕組みのことであり、家計から企業や政府へ資金を流すために金融機関や金融市場が資金の流れの仲介をしている。
家計の余剰資金は、銀行に預けるか証券市場で金融投資するかして企業に届く。銀行に預けることを預金というが、預金をどの企業に貸し出すのかを決めるのは家計ではなく銀行であるため、家計は間接的に企業に資金を貸していることになり、この経路を間接金融という。
もう一方の経路では、家計がどの企業の株式や債券を金融市場で購入するのか決めることができ、企業に直接的に資金を提供できる。この経路を直接金融という。どの国であっても間接金融のルートは重要ではあるものの、イギリスやアメリカでは直接金融のルートも大きな割合を占めている。イギリスを除くヨーロッパでは、間接金融の比重が大きいとされている。
株式市場時価総額と銀行預金GDP比率、地域差は大
図表2は、株式市場の時価総額と銀行預金のGDP比率であるが、EUやユーロ地域(EA)の株式市場の規模はGDPの約50%であり、グラフ右側のイギリス、日本(JP)、アメリカ(US)、OECD平均が100%を超えていることに比べると低い水準にとどまっている※1。預金残高を見ると、ユーロ地域が119.6%であるのに対して、アメリカ80.8%、イギリス79.3%とユーロ地域よりも低い。
※1 株式市場の時価総額は、株式市場に上場している全ての企業の株式数×株価を足して求める。株価は短期的に大きく変動するため、図表2のグラフもデータを取る年によって大きく変わる。
図表注:株式市場の時価総額は2017-2019年(国によって異なる)、預金は2020年。グラフがない国はデータなし。ルクセンブルクの預金は507.6%。
加盟国ごとの差も大きいが、東欧諸国では株式市場の規模が小さく、預金も少ない傾向にある。これは、金融市場の規模自体が小さいことを表しており、株式市場の育成や金融投資による資産形成を促す教育などの課題があることを示している。
ベネルクス諸国やスウェーデンは金融市場の規模が大きいが、これらの地域では金融サービスが充実し、金融機関のパフォーマンスが高いことが背景にある。
銀行が減り続ける「2つの理由」
かつては家計が利用する金融サービスは預金や送金などに限られており、銀行が中心的な役割を果たしていた。しかし、21世紀に入ると2つの変化が生じた。
第1は、インターネットやスマートフォンなどの新しい技術が取り入れられるようになり、送金や残高照会のために銀行の店舗に行く必要がなくなった。ヨーロッパの銀行はオンラインサービスの充実を図る一方で、支店の統廃合や支店機能の縮小を進めている。地方の支店では現金の受払などの限定されたサービスを提供し、その他のサービスは都市部の大店舗で提供するハブ=スポーク型の店舗展開も進めている。銀行を訪れる客数が減少しつつあることも店舗統廃合を進める要因になっている。
第2は、決済サービス事業者(Payment Service Provider)やネオバンク(オンライン上でサービスを展開し、従来の銀行サービスに加えて、家計管理機能、AIアドバイザー、暗号通貨支払い、外国向け送金など様々なサービスが使える)などの新規参入である。送金など従来の銀行と重なるサービスを提供しており、安い手数料や利便性を武器に若い世代を中心に顧客を獲得しつつある。ヨーロッパでは1889万人が銀行口座を保有していないが、ネオバンクは口座開設の条件が緩やかであり、これまで銀行口座を持てなかった人も取り込んでいる。
ネオバンクが増えているものの、全体としてはヨーロッパの銀行数や支店数は減少を続けている。銀行の従業員も2008年の326万人から2019年には262万人まで減少している。
国別では、ドイツ、オーストリア、フランス、イタリア、キプロス、ポルトガルなどでは銀行が多すぎ、エストニア、オランダ、ノルウェー、アイルランドなどでは銀行が不足しているという指摘もある※2。
※2 Gardó and Klaus, Overcapacities in banking: measurements, trends and determinants, ECB Occasional Paper Series, No. 236, November 2019.
これまで銀行業には、顧客対応のために多くの支店や人員を必要とする労働集約的な面もあった。PCやスマートフォンから金融サービスを利用するのが当たり前になると、ビッグデータの活用や本人確認・本人認証などのシステムを整備する必要があり、決済や預金などの管理システムの強化も必須となっている。
さらに、銀行に対して自身の資産・負債のリスク管理や不正対策などの法的要件も厳しくなってきており、システムが競争力を担う装置産業的な要素が強まりつつある。
川野祐司
東洋大学 経済学部国際経済学科 教授