近年の日本では離婚が増加傾向で、統計によれば3組に1組以上が離婚しています。ところが、離婚してつながりが切れても、血縁は切り離すことができません。それが相続と絡むと、金銭的にも心情的にも、複雑な問題となってしまいます。事例を見ながら考えていきましょう。※本連載は、小川実氏監修、寺門美和子氏・木野綾子氏の共著書籍、『別れても相続人』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「前夫の家族と揉めごとになるのは、避けたい…」

寺門:そうすると、共有名義の不動産が全部で4軒になるわけですね。それは大変! 博さんとしては、どういう方向で処理したいのですか?

 

博:私は性格的に人と揉めるのが嫌いなんです。欲しいなら、あげてもいいってくらいに考えていました。自分が住むのに困らない家がひとつあれば十分です。しかし、娘に怒られてしまうんですよ。「お父さん、天国のお母さんの気持ちも考えなよ」って。前のご主人の家族は、どうやら皆さん激しい性格のようで、息子さんたちも正直、気が強いですよ。私は話すだけで気が滅入るというか、こんなことなら私の命を妻にあげたかった。私が先に逝っていればこんな苦労を背負うことはなかったですよ。

 

寺門:そうしたら、いざ奥様が亡くなった時に、麻美さんがひとりで争うことになっていたので、そうならなくてよかったですよ! 確かに麻美さんがおっしゃることにも一理ありますが、争った結果、博さんが病気にでもなったら大変ですね。

 

博:しかし、妻も可哀想でね。息子さんたちに会わせてもらえなかったんです。幼い2人の孫たちのために、お姑さんが後妻さんを探したらしくて、前夫は即再婚したそうです。何度か妻が「会わせて欲しい」と言ったのですが、「新しい母親ができたんだ。恵子さんに会わせたらなつかない」と拒否され、あきらめていました。にもかかわらず、お姑さんは息子さんたちには、「お母さんは、あなたたちを捨てて出て行った人」と言い続けていたようで、彼らは恨んでいますよ、妻を。お姑さんは90歳を過ぎていますが、まだお元気だそうです。

 

寺門:博さんは、息子さんたちに事実を伝えようとは思わないのですか?

 

博:はい、墓場まで持って行こうと思います。お姑さんもご健在ですし、あちらのご家庭に波風を立てたくないもので。

 

寺門:お優しいですね。念のための確認ですが、奥様の遺言書はないのですよね?

 

博:もちろんないです。遺言書が必要なのは、お金持ちの人たちだけと思っていましたが、違うのですか?

 

寺門:遺言書があれば、完全とはいえませんが、博さんや麻美さんをもう少し守ることはできたと思います。できるだけ争いたくないという、博さんのご意向はわかりました。しかし、娘の麻美さんが人のいい博さんを心配する気持ちもよくわかります。ここは、経験豊富な弁護士さんに相談して、どう着地するのがよいのか、アドバイスをいただきましょう。

 

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別れても相続人

別れても相続人

寺門 美和子 著, 木野 綾子 著, 小川 実 監修

光文社

「養育権を手放したから息子はもう相続人じゃない」「元嫁に引き取られた孫は相続人じゃない」!? いえいえ、離婚しても血は脈々と繋がり、離婚後血族、「別れても相続人」であり続けます。 令和元年には離婚率が約35%(婚姻…

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