離婚時は冷静さを失いがちだが、のちの問題に留意を
寺門:ところで、複雑な問題を解決する際、問題の起点に立ち戻って考えることで、掛け違えたボタンを直すことができることがあります。離婚時に奥様がどうしたらよかったか、離婚に詳しい弁護士の松本雄一先生に聞いてみましょう。
松本:離婚の際には、いろいろな感情が出てきているうえ、早く別れたいなどの気持ちもあって、なかなか冷静になれません。ですが、不動産の共有など中途半端な状態を残してしまうと、今回のように後々、揉めごとが出てきてしまいます。前のご主人との共有名義の別荘について、奥様があえて残したかったのか、買ったことを忘れていたのかわかりませんが、どのような財産があるのかをきちんと洗い出し、共有となっている別荘を夫婦のどちらかが買い取るか、誰かに売って代金を分けるかしていれば、必要のない争点を増やすことにはならなかったですね。
木野:さらに、博さんとの再婚後も、将来、奥様が亡くなった時の相続人が誰になるかをよく考えて財産を形成し、「不動産の共有を避ける」とか、「ある程度の年齢になった時に共有不動産の名義を整理する」とか、遺言書を書いておくなどしておけばよかったかもしれませんね。
博:なるほど……。妻が離婚時に冷静でなかったのは間違いないでしょう。生前対策がいろいろと必要だったのはよくわかりました。しかし、妻が先立つとは思わなかったので、たとえ対策をしたとしても、何も考えずに全部妻名義にしていたかもしれません。
寺門:おっしゃるとおりですね。一般的には女性の寿命の方が長いので、そう考えるのは当然だと思います。令和3年の厚生労働省が発表した簡易生命表では、
〈男性で死亡数の多い年齢〉
1位:88歳
2位:89歳
3位:87歳
〈女性で死亡数の多い年齢〉
1位:93歳
2位:94歳
3位:92歳
となっています。しかし、相続対策で人の寿命を「平均」や「順位」だけで考えるのはナンセンスで、その家庭ごとの事情に合わせた対策が必要だと思います。離婚も相続もその点では非常に似ていて、「一般」とか「普通」という概念は参考にはしても、鵜呑みにしないことが大切です。離婚も相続も知識の有無で、結果に大きな差が出ますから、そこは深めていただきたいと思います。
ある程度の年齢で「共有名義」を整理しよう
「夫婦問題診断士」兼「相続診断士」として、コンサル業務を行う私、寺門は、案件を重ねるたびに、「共有名義」の怖さを感じています。離婚での財産分与や相続での遺産分割時に、不動産は均等に分けることができません。ましてや、「共有名義」の不動産は、権利(名義)を引き継ぐ相続人が複数いることで、揉めるリスクが高くなるのです。
木野先生がおっしゃるように、理想は「共有名義」を避けることです。しかし、家庭により事情はさまざま。それならば、
ある程度の年齢になったならば共有名義を整理する
ことを実践してみてください。特に離婚歴があり、前の配偶者との間に子どもがいる場合は必須です。浜崎家のような問題が起こりかねません。目先の損得ではなく、共有不動産は長い目で見て整理してください。
では、ある程度の年齢とは何歳くらいのことでしょうか? 私が考えるには、遅くとも55歳を過ぎて60歳を迎える前には向き合ってみて欲しいと思います。なぜならば、この年齢になると、自分の意思で体をコントロールすることが徐々に難しくなってくるからです。肌身で実感が伴い始めるこの年頃が、時間をかけて終活に取り組み始める適齢期なのではないかと思います。
また、家族構成に変化が生じた場合、資産に大きな変動があった場合、体に変調を来(きた)したり、病気をした場合も共有名義の整理は不可欠です。生前整理をしたいと思った時に体が動かない、気力が続かないというのは「終活あるある」なのです。
共有名義の見直しは、一度行って終わりではなく、継続的に見直すことが大切です。話題になっている「エンディングノート」を書いてみるのも一案です。年に一度、少なくとも2年に一度、自分自身の資産等の棚卸をすることで、生前対策の道筋が見えてきます。
寺門 美和子
AFP/上級プロ夫婦問題カウンセラー/相続診断士/終活カウンセラー/公的保険アドバイザー
木野 綾子
弁護士/上級相続診断士/家族信託専門士/終活カウンセラー
小川 実(監修)
税理士/上級相続診断士/終活カウンセラー
図版:秋穂 佳野