「離婚×不動産×再婚×不動産×妻の死」で大混乱に
争族シーンにおいて、「後妻 vs. 前妻の子ども」のドラマはとても多いのですが、ここでは後夫からの相談をご紹介します。
かつて日本ではバブル経済の頃、「土地神話」なるものがありました。それは「不動産地価は必ず上昇し続ける」というもので、「現金で持っているよりも土地を所有していた方が得策」だと、一部の方は可能な限り不動産を買いました。不動産投資のつもりだったのでしょう。
しかし時代は変わり、そのような神話は一部の大都市以外では通じなくなりました。そして、利用価値や流通性が低いうえ、固定資産税やライフラインの維持など、一定の金銭的負担は継続する”負動産”となった不動産が、相続の際に火種となるケースが増えています。
また、不動産購入時に、夫婦の「共有名義」にこだわりすぎたがために、名義人のひとりが亡くなった後のトラブルもよく聞く話です。特に、「離婚×再婚」が絡むと一層煩雑になりがち。ご遺族にとっては「青天の霹靂(へきれき)」かもしれませんが、相続の専門家からすれば事前に十分な準備・対策ができたことだと思います。
今回のケースを見てみましょう。
夫婦問題コンサルタントの寺門が、まずは相談者・浜崎博さんのお話をうかがいました。
相続トラブルの火種は、4つの共有名義不動産
博:妻が病気で亡くなったのですが、妻にとって私との結婚は再婚で、前夫との間に息子さんが2人います。実は……、相続で揉めているのですが、複雑すぎてわけがわからなくなってしまったんです。
寺門:それは大変ですね。一体どうしたのですか?
博:妻はどちらかというと気が強い性格で、しっかりしているというか……しすぎているところがあるんですよ。気の弱い私にとっては相性抜群だったのですが、妻は前夫との離婚の際にお姑さんとやりあってしまい、逆上して家を飛び出したようなんですね。当時、妻は31歳、息子さんたちは小学生だったそうです。
寺門:息子さんたちは、奥様の前夫が引き取ったのですか?
博:はい。二世帯住宅だったらしく、子どもたちはその後、お姑さんが育てたそうです。お姑さんは、妻があまりにも資産などお金に関して口を出すのが気に入らなくて。
寺門:なるほど。「わけがわからなくなってしまった」とおっしゃるほどの複雑な事情というのは、どんなことなのでしょう?
博:まず、妻は前のご主人と那須に別荘を持っていたらしいのですよ。購入する際、しっかり者の妻は、「私も名義が欲しい」と言って、前のご主人と共有名義にしました。しかし、離婚の際のバタバタで、その名義はそのままで家を出たらしいのです。
寺門:離婚時に清算していなかったのですね。しっかり者の奥様のはずなのに!
博:いや〜、しっかりというか、ちょっとがめついのかな(汗)。また意外と大雑把な人間なんですよね。
寺門:そうすると、その別荘も博さんと娘さんが関わってきますね。
博:そうなんですよ。別に、私は欲しくはないのですが。それより問題は、私との共有名義不動産なのです。
寺門:博さんとの間にも共有名義の不動産があるのですか?
博:結婚した時の約束が、「自宅の購入」でした。当時、私も結婚適齢期を過ぎていましたし、ひとりの老後に備えて、いずれ自宅を購入しようと思っていたので、深く考えず受け入れました。娘が幼稚園に入る頃かな? 今の家をやっと購入したのです。その時、妻が「名義は半々にして欲しい」と言ってきました。確かに頭金の一部は妻の親に援助してもらいましたからね。前の結婚の際に姑から、「ここはあなたの家じゃないんだから」と言われたらしく、「悔しかった。そんな思いをしたくないから名義が欲しい」と言うのですよ。私は半分妻の名義にすることに異論はなかったので、そうしました。
寺門:ということは、前夫との間に授かった息子さんたちにも法定相続人として、遺産分割の権利が発生してしまったのですね。
博:はい。まだあるんです。那須の別荘には息子さんたちが小さかった頃の楽しい思い出がたくさんあるらしく、「麻美にも別荘での思い出を作ってあげて欲しい」ということで、熱川に別荘を購入したのですよ。その時も名義は半分でした。
寺門:共有名義が2軒ですか!
博:お恥ずかしいのですが……。もう1軒あるんです。我々の時代は、「不動産さえ持っていたら将来安泰だから」と言われておりまして。妻は不動産購入が好きでした。15年ほど前に自宅の隣りが空き家になったので、娘が結婚したら住んでもらおうと思って購入しました。私も親の相続でお金が入ったので、その家も共有名義で購入したのです。その時は感覚が麻痺していたのか、「不動産を買ったら妻と共有名義」と思っていました。結局、娘は夫の仕事の関係で九州に住んでいますから、今は物置のような状態ですが。