母は亡くなる前日に、30代の男性と入籍していた――。今回は、前夫の娘が後夫に挑む闘いです。なかなかドラマティックですが、人生100年時代、増加が予想される事例だといえます。夫婦問題コンサルタントの寺門氏と弁護士の木野氏がタッグを組んで解決策を探します。※本連載は、小川実氏監修、寺門美和子氏・木野綾子氏の共著書籍、『別れても相続人』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。

 

相談者:娘・野口さくら 26歳

父・野口康夫 52歳

母・堀内京子 (故人・享年50歳)

母の現在の夫(再婚相手)・堀内俊輔 39歳

祖父・松岡肇 (故人・享年80歳)

祖母・松岡美恵子 75歳

伯母・53歳

 

資産家&魅力的な母だったが…自身が原因で父と離婚に

さくら:信じられません! 母は男にだらしない人だとは思っていましたが、こんなに浅はかだったなんて……。

 

寺門:どうされたのですか?

 

さくら:母はまだ50歳の若さで病気で亡くなりました。祖母を残したまま亡くなったのです。

 

寺門:(相談シートを見て)お母様と苗字が違いますが、さくらさんはご結婚されているのですか?

 

さくら:いいえ。私の両親は私が中学生の時に離婚しました。母の浮気が原因でしたので、私は父に引き取られました。とはいえ、父は理解があり、母とはしょっちゅう行き来がありましたが。

 

寺門:お父様、素晴らしいですね。妻に浮気された男性が、そこまで寛容なのは珍しいですよ。

 

さくら:父には救われます。しかし母がここまで愚かとは……。

 

寺門:どんなことがあったのですか?

 

さくら:母は、娘の私から見ても、とても魅力的な女性でした。だからモテるのですが、ダメンズばかり寄ってきていつも騙(だま)されるんです。母方の祖父は地主で、家賃収入がたくさんあり、母一家は経済的には裕福なんです。

 

寺門:さくらさんのお父様は賢い方なのに……。

「それではまるで、後妻業ならぬ…」

さくら:父は祖父が決めた結婚相手で、祖父のところに出入りしていた銀行マンだったんです。祖父は父にいつも、「娘が申し訳ない」と頭を下げていました。離婚原因の決定打は父の部下との不倫でしたが、いつも恋愛は短期間で終わる恋多き女性でした。

 

寺門:傍で見ていたさくらさんも辛かったでしょうに。しかし、お母様、お祖母様とも苗字が違う。……ということは、お母様は再婚したのですね。

 

さくら:どうやらそうらしいんです。

 

寺門:さくらさんはご存知なかったのですか?

 

さくら:私はその男との結婚に大反対していましたから。付き合う分には構いませんが、見るからに怪しいタイプで。まだ39歳と母よりひと回りも年下で、仕事も何をしているのかすらわかりません。いつも母の家にいて、どうも母が貢いでいたんじゃないかな。母が大金を渡すのを見ちゃったんですよね。

 

寺門:まぁ。後妻業ならず後夫業のようですね。

 

さくら:そうそう、それそれ! 祖母も最初は反対していたんです。でも、半年前に母が末期がんで余命宣告をされて祖母も落ち込んでしまい。最後には許してしまったみたいなんです。

 

寺門:さくらさんは最近、お母様とは会っていなかったのですか?

 

さくら:とんでもない! 休日のたびにお見舞いに行きましたし、最後の1か月は会社の有休も取得して、できる限り会いました。その男もいつも病室にいましたけど、そこは受け入れましたよ。

結婚に気づけなかったのは、入籍が死の前日だったから

寺門:さくらさんはこんなにしっかりしているのに、なぜ結婚に気がつかなかったんですか?

 

さくら:それが、入籍したのが亡くなる前日なんですよ。婚姻届の証人欄には、祖母と伯母が署名しました。病院のベッドで痩せ細った母が泣いてお願いするから断れなかったとか……。

 

寺門:え〜! お祖母様や伯母様はことの重大さをわかっているのですか?

 

さくら:今、2人は後悔というか反省というか……、相当落ち込んでいます。ほかの親族から私に、「専門家に相談してきなさい」と連絡があって今日は伺いました。祖母も伯母も天然キャラで。私も、病院とのやりとりや、母との残された時間を大切にしたいばかりに、そこまで気が回りませんでした。病床で母は、「怒られるから、さくらには言わないで」と言ったみたいです。

 

寺門:これはかなり困ったケースですね。

 

さくら:病院のベッドのネームプレートも「松岡京子」のままでしたからね。母の姓が「堀内」と言われても、娘の私でも未だにピンときません。

 

寺門:お母様も資産はお持ちなのですか?

 

さくら:はい。祖父が亡くなった際、二次相続対策というのでしょうか? 母の名義になった不動産やら、株式・現金やらがあるそうです。

 

寺門:もうこれは、弁護士さんにお願いするしかありません。戸籍上、夫である俊輔さんは、婚姻期間がたった1日でも、娘のさくらさんと同じ相続割合の権利がある相続人です。何ができるかわかりませんが、相談してみましょう。

 

さくら:はい。母は祖父に天国でめちゃ怒られていますよ。きっと祖父が力を貸してくれるはずです。

 

次ページ「再婚自体が無効だとして、争うことはできる?」

※本連載は、小川実氏監修、寺門美和子氏・木野綾子氏の共著書籍、『別れても相続人』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。

別れても相続人

別れても相続人

寺門 美和子 著, 木野 綾子 著, 小川 実 監修

光文社

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