ところが内閣官房調査の結果によれば、そうではない。それどころか、若い世代になればなるほど、フリーランサーの中に占める割合が低い。見られる通り、調査対象フリーランサーたちの中で、29歳以下の世代が占める割合は、11%にとどまっている。
それに対して、60歳以上のフリーランサーたちの対全フリーランス比率は、30%に達している。全年代の中で、この世代の構成比が一番高い。ダントツトップである。
この人々は、いつからフリーランサーだったのだろう。ひょっとして、若かりし頃から「自由な槍」として様々な職場を渡り歩いてきたベテランフリーランサーなのか。そうではないと考えてほぼ間違いないだろう。
60代と言えば、前出の世耕発言の中に出てきた「従来の日本型雇用システム一本やり」の就労環境に、ほぼどっぷり浸ってきた人々である。終身雇用で年功序列が大前提。その道を歩み続けて何十年という人々だ。
彼らの中に、若かりし頃から「自由な槍」を振りかざしていた傭兵族がそう数多くいたとは思えない。となれば、これらのシニア・フリーランサーたちは、「従来の日本型雇用システム」から定年退職した後、あるいはそのタイミングが近づいてくる中で、華麗なる転身を図ったということになる。
これはなかなか面白い。この人たちは、長いサラリーマン・ライフの中で、密かに「自由な槍」ライフに憧れていたのかもしれない。すると、何と政策が、「フリーランス化の勧め」を始めた。
そこで、思い切って夢の実現に動いた。そんな面があるかもしれない。むろん、金銭的に背に腹は代えられないという面もあっただろう。この辺の感じはどうなのか。一定の答えが、内閣官房調査の次の項目に表れている。「フリーランスという働き方を選択した理由」である。
そちらに目を転じよう。
フリーランサー化の道を選択した理由トップ3
調査回答者たちがフリーランサー化の道を選択した理由のうち、トップスリーが次のよ
うになっていた。
〈フリーランスという働き方を選択した理由〉
1位 自分の仕事のスタイルで働きたいため 57.8%
2位 働く時間や場所を自由にするため 39.7%
3位 収入を増やすため 31.7%
ここで苛つくのが、このデータの世代別ブレークダウンが解らないことである。 「自由
な槍」になりたい理由に、世代間でどんな差があり、どんな特徴が表れているのか。それ
が知りたいところだ。だが、その情報が示されていない。どうもこの調査は、こういうところが雑だ。調査主体の「内閣官房日本経済再生総合事務局」という御大層なネーミングのわりには、踏み込みに欠ける。おかげで、あれこれ推理力を発揮することを強いられる。
推理の結果、結論的に言えば、この選択理由の順位にも、前項でみたフリーランサーた
ちの年齢構成が反映されていると考えられる。「自分の仕事のスタイルで働きたいため」が6割弱を占めているのは、前述の通り、ベテラン・サラリーマンの「自由な槍」願望の表れだと考えて大過なさそうだ。
長年の職場経験の中で、 「自分流」がどういうものかがよく解ってきた。だが、サラリーマン・ライフの中では、その「自分流」を存分には発揮できない。不本意なやり方にも、甘んじて与しなければならない。そんな我慢を続けてきたからこそ、セカンドライフに到達したところからは、伸び伸びと「自分流」を貫くぞ。そんな思いがこの回答比率の中に表れているのだと思われる。
対する若い世代のフリーランサーたちにおいては、まだ「自分流」が確立されていない。だから、彼らのフリーランス選択理由は、どちらかと言えば、 「働く時間や場所を自由にするため」に集中しているかもしれない。
浜 矩子
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
エコノミスト