「働き方改革」=「働かせ方・超お買い得化」構想
「働き方改革」構想は、実を言えば「働き方改革」構想ではない。その正体は、「働かせ方・超お買い得化」構想だ。いかに安上がりに、いかに効率的に、21世紀の労働者たちを使いまくるか。そこに焦点を置いたのが、この構想である。
この構想が実現しようとしているのは、21世紀の労働者たちの生産性を引き上げ、そのことによって経済の高成長に結びつけていくことだ。働く人々のための「働き方改革」ではない。
チームアホノミクスの「働き方改革」は、人と幸せをつなぎとめる蝶番としての労働の有り方とはまるで無関係だ。それどころか、「働かせ方」を変更することによって、彼らは、日本企業が「世界で一番」労働コストという名の制約から解放されることを目指している。
労働者を保護するための法制度の遵守責任から「世界で一番」解き放たれた状態で、日本企業が収益と効率を追求する。そして、そのことが、強くて大きな日本経済の構築につながっていく。強くて大きな経済基盤の上に、強くて大きな、21世紀版・大日本帝国を築き上げていく。
これがアホノミクスの大将の政治的下心だ。彼のこの野望が今なお毒々しく息づいていることは、与党の政治家たちが、ロシアによるウクライナ侵攻を盾に取って、日本の軍備増強と憲法改正を正当づけようと鼻息を荒くしているその様相に、如実に表れている。
このような下心政治が渦巻く中で出現してきた「働き方改革」体制が、その目玉商品としているのが、「柔軟で多様な働き方」の推奨である。
働き方改革関連法については、同一労働同一賃金と、長時間労働の是正の実現を打ち出したところに、その画期的な特性があると受け止められがちだ。そのような理解の浸透に向かって、政治的なプロモーションが盛んに行われてきた。
メディアが、このプロモーションに踊らされてきた。だが、実のところ、同一労働同一賃金と長時間労働の是正は、チームアホノミクスによる「働き方改革」の当初の構想の中には入っていなかった。
「働き方改革」の当初構想は、「柔軟で多様な働き方」を浸透させていくことがその一本柱だったのである。同一労働同一賃金と長時間労働の是正は、有り体に言えば、体裁を整えて通りをよくするために付け加えられた、側面支援的つっかえ棒に過ぎなかった。
「働き方改革」への労組の賛同を取りつけるための、取引材料だった面もある。これらの点についても、前掲の各拙著でご確認頂ければ幸いだ。
彼らが打ち出した「柔軟で多様な働き方」は、何を意味していたか。それがまさしく、本書でこれから見ていこうとしている就労形態、すなわちフリーランス化であり、人々のギグワーカー化だ。
そして、その延長上にあるのは、人々のプレカリアートへの転落の恐れだ。このカラクリの解明を含めて、21世紀の日本の労働者が、どのような働く日常に当面しているかについて、順次見ていくこととしたい。
※「不安定な」と「プロレタリアート」(労働者階級)を組み合わせた語で、1990年代以後に急増した不安定な雇用・労働状況における非正規雇用者および失業者の総体。
浜 矩子
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
エコノミスト