スクール最終日クレームをつけた親の意外な言葉
■「出る杭を育てる」
八代さんは、日系起業家らでつくるボストン日本商業会(JBBB)の代表として活躍しています。まだ英語がうまく話せなかったころ、貴重な経験をしました。スキーが得意な八代さんがスキーのインストラクターのテストに合格し、スキースクールの初日を迎えた時のことです。
3カ月間受け持つことになった子どもの親から「同じお金を払っているのに英語が苦手なインストラクターからレッスンを受けるのはアンフェアだ」とクレームをつけられました。
その時、八代さんの上司にあたるスクールの校長はこう言いました。
「英語は問題じゃない。スキーの技術、教える技術に問題があるなら来週また来てくれ。文句があるなら担当を代えます」
校長は八代さんが後ろにいるのを知らずに、クレームをつけた親にこう話したそうです。
つまり、八代さんを気遣って言ったわけではなく、クレームに臆せず、問題は英語ではなくて、スキーインストラクターとしての技術だと、自分の考えを主張したのです。
八代さんはクレームをつけた親の子どもを3カ月間、受け持ちました。スクール最終日、親に子どものスキルを見せ、修了証を渡しました。八代さんは親から「後で話がある」と言われます。嫌な予感がしたのですが、逆でした。
「うちの会社に来て一緒に仕事をしないか」
会社で新設する日本輸出部門のマネージャーにならないかという誘いでした。当初、クレームをつけた親は「言葉の壁を破って仕事をやり抜いた心意気が気に入った」と言ってくれました。
八代さんは誘いを受け、その会社で7年間、仕事をしました。
どこでどんな縁があるのか、分かりません。
「アメリカには頑張った人を引き上げる優しさがあります。出る杭は打て、ではなくて、出る杭は立派に育てよう、という気持ちがあると感じます」
八代さんはこう言います。
岡田 豊
ジャーナリスト
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