「リスペクト」する心を育てる毎朝の自慢話
■毎朝自慢し合う子どもたちが他者を受け入れる
アメリカの東海岸に浮かぶナンタケット島。八代江津子さんは、この島の伝統工芸品ナンタケットバスケットの職人です。八代さんは30年近く前、アメリカのボストンに移住してきた時のことをよく覚えています。息子さんが通うことを決めたプライマリー・スクール(日本の小学校に相当)の教師から、入学に際し、「子どもにはリスペクトすることを教えておいてください」と言われました。
「人を敬う」という意味のリスペクト。「年上を敬いなさい」という意味かと思いつつ、どういうことか聞き返しました。すると、教師は「髪の色が違う。背が低い、高い。太っている。小さい。みな、それぞれ違います。それをリスペクトしてほしい」と言われたそうです。
息子の教室では、びっくりすることがありました。毎朝、「SHOW&TELL」という時間があって、子ども数人がそれぞれ自分の「自慢話」をクラスメートの前で話すのです。
「きのうお父さんが10ドルくれたよ」
「ゲーム機を買ってもらったんだ」
そのゲーム機を教室に持ってきて見せる子もいます。
「そんなことって、日本ではなかなかできません。抑え付けられちゃう。でもアメリカの学校はそうやって、うわー、いいなあ、うらやましいなーと、称賛し合うんです。そこが基本的に違うなと」
自分が自慢したいことを知ってもらい、分かってもらい、受け止めてもらい、褒めてもらえる。
聞く側の子どもたちは、「まあ素敵」「なるほど、そんなこともあるんだ」と感じながら、相手の個性を受け入れ、尊重するようになるのではないかと八代さんは言います。その自慢をなぜ伝えたいのか。
子どもたちは自慢の背景は何かを考えるのではないか。他人の自慢をいちいち妬んでいては身が持たないので、受け入れるしかないというふうに変わっていくのかもしれません。
「日本人から見たら、ただの自慢ですが、よく見てみると、それを共有に結び付けている。共有から尊重が生まれると感じました」
八代さんはこう言います。
一方で八代さんは、アメリカで一時推奨された「褒め育て」の弊害を指摘します。「あなたが最高よ」と子どもを褒めて育てるアメリカの教育の副作用です。
「自分が最高」と信じている本人は幸福を感じるのですが、「自信過剰になり、他者を受け入れる必要がないという極端なところまで行ってしまう人も多い」と言います。この意識が人種差別の背景の一因になっているのではないかと八代さんは感じています。