「私が死んだら全財産を、長年過ごした妻に…」子「そうはさせるか!」あんなに仲がよかったのに…相続争いで"守るべきは妻”と断言できるワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「自分が死んだら、長年過ごしてきた妻、迷惑をかけてきた妻にすべてを相続させたい…」そう考える人も多いのではないだろうか。「子供と妻はうまくやってるから大丈夫」そんなよくある考えは非常に甘い! 子は“母”にとって手強い相手となる可能性が一番高いのだ…。行政書士であり静岡県家族信託協会代表を務める石川秀樹氏に、実話に近いストーリー仕立てで分かりやすく解説いただく。

「妻は子と上手くやってるから大丈夫」は甘い!

 

みなさん、“次の次の相続”について、考えてみたことはあるでしょうか?

 

私自身、自分亡き後の相続を考える適齢期。そこで皆さんにもお聞きしたいのですが、「相続」における“次の次の人”とは誰のことでしょう?

 

「孫に決まってるじゃないか」と多くの人が答えそうですが、本当にそうでしょうか。実は私自身もそんな感覚をもっていました。つい、かわいい孫への相続のことまで考えてしまう。

 

しかし、その発想は間違っています。「次の次」は「子」のこと。「孫」ではありません。つまり「次の人」は私にとっては「妻」になります。多くの場合、男性は女性より先に死ぬ確率が高いのに、つい妻のことは忘れがち。猛省しなければなりません。「妻は子らと仲良くやっているから相続になっても大丈夫」なんて思っていては、甘い甘い!

 

日本の相続法の基幹は「民法」です。民法は法定相続人を決め、その取得割合(法定相続分)まで決めています。これは分け方の基準ですが、嫌なら守らなくてもいいんです。ただし、“揉めるリスク”については覚悟しなければなりません。そして、揉めてどうしようもなくなった結果、裁判になったときに、裁判官が拠るべき基準が「法定相続分」です。

 

民法は、大きなお世話なことに遺留分まで決めています。おおむね法定相続分の半分です。これは“基準”ではなく、“権利”です。相続人が「遺留分を侵害された。取り戻して」と訴えれば、原告が勝ちます。遺留分は相続人の権利です。よい子も悪い子も関係なし、親の主観は汲まれません。お金のことは実にドライに決着します。だからこそ、相続を感情や想いで考えていてはダメで、技術と戦略がなければ通用しないのです。

いまは生前の父のひと声も、影響力ある長兄のにらみも効かない時代

 

普通の家の相続の話に戻ります。私は一緒に歳をとってきた妻のことを守りたいと考えています。何から守ることを意味するのかというと、「子」からです。身もふたもないような言い方ですが、綺麗事は抜きにしてリアルな現実をいえば、1次相続で、妻と子の利益は相反します。夫の遺産の獲得をめぐって対立関係にならざるを得ません。妻も子も、第1順位の法定相続人だからです。

 

かつては「1次相続は全部お母さんに」という相続もありました。生前の父のひと声か、影響力のある長兄のにらみも効いたかもしれません。

 

しかし、今は違います。「平等相続」が定着してきたからです。インターネットの存在もあり、親の相続となれば様々な媒体から知識を吸収して、権利があるとわかればその権利を主張する人が増えてきました。ですが、みんながそれを言い出したらどうなるでしょうか……?

 

今も昔も、法の決まり通りに“平等”に分けられるだけの資力がある家ばかりではありません。加えて今の日本の都会では、地価が高騰しています。しかしこれまで、国民はこぞってマイホームを建ててきました。大きな借金を抱えながらも、終の棲家を手に入れたのです。「自分が死んだら妻が住み続けるだろう……」。そんな、当たり前と考えられていた発想が、未来(現代)の相続をとてつもなく難しくしている、なんてことは想像だにしなかったでしょう。

「妻にすべてをあげたい」は無茶な願いなのか?

 

子にも妻と同等の権利があります(同居していない子であっても)。家は多くの人にとって大きな財産です。適切な時機にうまく処分すれば、“年金”のように老後の暮しを援けてくれます。一方で、金融資産は家と相対的に考えると少ない財産です。それだけに、お金は老後を守る大事な大事な糧となります。だからこそ、「家もお金も全て妻にあげたい」考える人も、少なくないのではないでしょうか。

 

無茶な願いをいかにして通すか、ここからは“相続技術”の話となりますが、問題点を挙げると、大きくは以下の2つとなるでしょう。

 

❶妻に家もお金も全て相続させたい。すると妻は子の法定相続分どころか、私が遺言を書いたとしても、子の遺留分まで侵害してしまうことになる。残る手は、土地を子と共有するしかないが、子は家を「処分しにくくなる」と喜ばない。

 

❷妻は高齢なので今後認知症になる確率は高く、妻が遺産を首尾よく得られても、今度はそれが使えなくなるかもしれない。どうしよう……。

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    静岡県家族信託協会 代表・ジャーナリスト・行政書士
     

    1950年静岡市生まれ。早稲田大学第一政経学部卒。静岡新聞記者40年、元編集局長。62歳で相続専門の行政書士開業。2016年に家族信託に出会う。同時に成年後見制度を知ることとなり、記者として家族として疑問に思うことが多く、2018年7月静岡県家族信託協会を設立。『静岡県家族信託協会のブログ』で晩年の諸問題について解決法を提起している。

    著書:
    『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 成年後見より家族信託』
    『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決』

    1950年静岡市生まれ。
    1973年3月 早稲田大学第一政経学部卒業
    1973年4月 静岡新聞社に入社
    2004年3月 編集局長
    2012年8月 新聞社退職後、行政書士に
    2016年3月 家族信託を手掛け普及に乗り出す
    2016年11月 『大事なこと、ノート』刊行
    2017年11月 家族信託のパンフとヒヤリングシート作成
    2018年5月 静岡県遺言普及協会を設立
    2018年7月 静岡県家族信託協会を設立
    2019年4月 『認知症の家族を守れるのはどっちだ!? 成年後見より家族信託』を出版
    2022年10月  『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決』 を出版


    静岡県家族信託協会(ホームページ)
    ジャーナリスト石川秀樹(Facebook)

    著者紹介

    連載「成年後見制度」を追うジャーナリスト兼行政書士・石川秀樹氏が徹底解説

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