(写真はイメージです/PIXTA)

ウクライナ戦争や米中の対立、約40年ぶりのインフレなど、悲観のなかで始まった2023年の株式市場。しかし、株式会社武者リサーチ代表の武者陵司氏は「強気相場が育っている可能性」を指摘します。その根拠とは……詳しくみていきましょう。

懐疑のなかでも「強気相場」が育っている可能性

しかし「強気相場は悲観のなかで生まれ、懐疑のなかで育ち、楽観のなかで成熟し、幸福感とともに消えていく」という有名なジョン・テンプルトンの格言にあるように、悲観論と警戒論の蔓延は、大相場の波が始まる前に必ず起きることでもある。

 

強力な金融引き締め下での潤沢な投資資金は何故なのか

懐疑論が見過ごしている要素があるとすれば、それはどのようなものだろうか。

 

第1にグローバルに潤沢な投資資金、流動性の存在がある。米国での1年間で8回、累計4.25%の利上げにもかかわらず、これほどの潤沢な投資資金が健在であることは多くの人々にとってまったくの想定外であった。

 

余剰資金は新興国株式や米国の低格付けクレジット市場に流れリスクプレミアムは低下し始めている。なにより4.5%まで短期金利が引き上げられたのに、米国10年債利回りは3.5%前後まで低下している。

 

これはCPIや名目経済成長率の半分であり、テーラールールに基づけば依然として緩和的水準にあるといもえる。金融引き締めの効果を金余りがしり抜けにさせているともいえるのだ。

 

まさにグリーンスパン元FRB議長が謎(conundrum)といった事態が再現されているかのようである。

 

この長期金利の低下を先行きの景気不安の予兆とする見方もあるが、そうであればよりリスクの高い新興国株式やジャンク債の値上がり、さらには米国銀行貸し出し増加や、世界景気との連動性が高い銅市況の上昇などをどう考えたらよいのだろうか。

 

[図表3]米国長期金利推移(名目GDPの半分以下の水準でピークアウト)
[図表3]米国長期金利推移(名目GDPの半分以下の水準でピークアウト)

 

[図表4]米国BBB社債リスクプレミアム
[図表4]米国BBB社債リスクプレミアム

 

[図表5]米国銀行貸し出し前年差
[図表5]米国銀行貸し出し前年差

 

イノベーションと企業部門の資本生産性の向上

1980年以降、長期金利の低下が景気悪化の前兆ではなかったように、今の長期金利の低下も別の要因によるものである可能性が考えられる。

 

それはなにかといえば、企業部門の生み出す価値が、企業部門が必要とする投資より大きく「恒常的資金余剰」が起こっていると考えられるのではないか。

 

その背景には資本生産性の恒常的上昇がある。設備、機械、知的資産などの価格が大きく低下し、設備などの再取得価格が低下し、必要な投資額が減少するということが起きている。

 

またGAFAMではリストラが進行しているが、そこではAI、ロボットによる労働力代替が起きており、大きな生産性上昇ゲインが、企業部門の金余りを引き起こしている可能性がある。

 

図表6、7に見る米国企業の大幅なフリーキャッシュフローの存在は、企業部門に潤沢な資金余剰が存在していることを示している。

 

[図表6]米国企業部門(非金融)のフリーキャッシュフロー推移
[図表6]米国企業部門(非金融)のフリーキャッシュフロー推移

 

[図表7]GAFAMのフリーキャッシュフローとその使途(投資と配当・自社株買い)推移
[図表7]GAFAMのフリーキャッシュフローとその使途(投資と配当・自社株買い)推移

 

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※本記事は、武者リサーチが2023年2月6日に公開したレポートを転載したものです。
※本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

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