米国当局の「真の敵」はデフレ…インフレではない
第2に見過ごされている要素があるとすれば、米国政策当局の「真の敵」はなにかの見極めである。
詳述は別の機会に譲るが、FRBの最大の脅威は「インフレ」ではなく「デフレ化」であり、Japanification(日本化)であることははっきりしている。オーバーキルに結び付くような利上げは起きないと安心して見ていてよい。このことが明らかになれば、株価は急騰するだろう。
FRBは本質的にデフレと戦っている。デフレとは潜在的に存在している成長可能性未達の結果であり、それは政策のサボタージュを意味し、必然では決してない、というものが米国の経済学者と政策当局にとってコンセンサスである。
日本ではあいまいにされているが、米国の経済政策の最終ゴールは生活水準の向上であり、FRBの2大任務(dual mandate)とされている最大雇用と物価の安定はそのための手段に過ぎない。
FRBは無理かつ不必要な引き締めは早晩転換させるであろう。
過度の賃金上昇を抑制している米国労働市場の効率性
第3に見過ごされていることは、景気減速の下でも好労働需給が続き、かつ賃金上昇率がピークアウトしていることである。明らかに労働市場が弾力的に動き、資源配分をさい配しているといえる。
コロナ禍の下での異常な労働需給ひっ迫が引き起こした、トラック運転手やウェイター、ウェイトレスなど接客業での人手不足は緩和に向かい、賃金上昇率は鈍り始めている。また高給セクターの金融や情報部門での雇用の伸びが低いことも全体の賃金水準の伸びを待引き下げている。
しかし企業の求人意欲は強く、すべてのセクターで雇用が増加している。
旺盛な消費が広範な雇用機会をもたらすという好循環は、まったく損なわれていない。
1990年代前半の情報化革命、BPR(ビジネスプロセスリ・エンジニアリング)革命の時は、機械に置き換えられたホワイトカラーが失業し、労働市場が不振のままのジョブブレス・リカバリーが続いた局面があった。当時と比較すれば、現在がいかに新規雇用機会の創造が旺盛であるかがわかる。
以上のように底流にある要素を考慮に入れるならば、2023年1月の意外な世界株高は大きな上昇サイクルの初期場面である可能性が十分にあることを、念頭に置きたい。