(※写真はイメージです/PIXTA)

「成年後見人制度」は、認知症などによって判断能力が低下した人の財産管理や生活に必要な契約を代理人が行うことで、円滑に進めるための制度だ。しばしば問題点が指摘されるこの制度だが、相続に大きな影響を与える成年後見人制度のメリットやデメリットについて、行政書士であり、静岡県家族信託協会代表を務める石川秀樹氏が、具体的な例を交えて解説する。今回は、「後見制度を相続発生後に利用した場合」についてシミュレーションする。

進み始めた妻の認知症

「成年後見制度は使いにくい・よくわからない」と考える人が多く、制度発足から23年目を迎えた今も後見利用を先送りする人が少なくない。後見制度とは、実際にはどのようなものなのか? 具体的な相続の場面を思い浮かべてみよう。

 

甲さん(80)の家族は、同居の妻(78)と、近居する子Aさん(53)、東京在住の子Bさん(50)の4人家族だ。地方都市に住む甲さんは、マイホーム(相続税価額3,000万円、家屋は0円とする)と金融資産3,000万円を有している。

 

一方、妻の預貯金は600万円程度。公的年金は生活の補てんになっているが、甲さん死亡後の遺族年金はそれほど多くはないので、甲さんが先に亡くなった場合、妻の預貯金は少しずつ目減りしていくと考えられる。

 

甲さんの憂いは、数年前から進み始めている妻の認知症だ。とはいえ、手続き面の支障は今のところない。少々妻の預貯金管理がおぼつかなくなってきたので、今は甲さん本人が管理し、万一の時には子Aのお嫁さんに銀行のことは頼んでいる。

甲の死亡後に成年後見制度を利用する

そんな折、甲さんが亡くなったとする。

 

相続が発生するが、甲さんは遺言書など何も手を打ってきていない。葬儀後、一段落して子Aと子Bは相続をどうしようかと考える。Bは「全部、お母さんが相続すればいいんじゃないか? 相続税※1もかからないだろうし」と提案する。

 

その通り。妻が自宅を相続しても小規模宅地の特例が使えるので、土地の評価額は「8割引きの600万円」になる。相続人は3人。基礎控除額は4,800万円だから、確かにゼロ円相続になるだろう。

 

念のため二次相続※2のことも考える。「母さんは、いずれ一人暮らしは無理になるだろう。施設に入れば毎年200万円~300万円かかるから、10年で枯渇しかねない。少し節約できる施設を考えた方がいいかも」とAは言う。

 

「そうなれば家を売ってもいいじゃないか」とBは提案する。いずれにしても2次相続でも相続税は発生しそうにない。

 

※1:相続税は、相続した場合に必ず発生するのではなく、亡くなった方(被相続人)から受け取る遺産が一定額以上だった場合に発生する。

※2:一次相続で相続人となった配偶者が死亡したときに発生する相続のこと。

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