安全衛生マネジメントから人的資本マネジメントへ
ここからは、ボトムラインとしてのレギュレーションについて、ISOなどを軸にみていきましょう。一般的に人事や安全衛生を管理する部門は、いわゆるコストセンター、バックオフィスとして捉えられていますが、アメリカ企業では、人事や安全衛生部門は経営の中枢とも捉えられる動きがあります。
彼らの立ち位置を変えたのは、ISOの共通化とレギュレーションSKです。 ISOといえば以下のような企画が代表的です。
・ISO14001(環境マネジメントシステム)
・ISO27001(情報セキュリティマネジメントシステム)
・ISO45001(労働安全マネジメントシステム)
従来、企業では部門ごとにISO担当が決まっているケースが多く、各担当者がそれぞれのシステムのなかで人事や安全衛生部署に関係する箇所を確認していきます。これに対し、ISO規格を横断的に捉え、ISO45001などと同様に共通化構造を持ちつつ、人的資源マネジメントについてさらに延長させたのがISO30414(人的資源マネジメント)です。
ISO30414(人的資本マネジメント)は、内部/外部の人的資本報告(HCR)向けガイドラインで、多様性や組織文化、生産性、後継者育成、労働力の可用性などの主要な領域が定められていますが、そのなかのひとつとして「組織の健康、安全、Well-being」が取り上げられています。簡単にいえば、人事や安全衛生部門がほかの部門と同レベルの扱いになったというわけです。
ISO30414(人的資本マネジメント)が注目されている背景には、2020年8月にSEC(米国証券取引委員会)が行ったレギュレーションS-K(財務諸表以外の開示に関する要求事項)の改訂も関係しています。SECによるレギュレーションS-Kの改訂では、企業に対し、人的資本情報の開示義務を「事業を理解するために重要な範囲」として説明しています。
ただし、開示する具体的な内容は自主性に委ねられており、どのような情報やデータを公開すればよいのか、どのような基準で検討すればよいのかなどは不明確なままとなっています。そこで開示内容に対する参考ガイドラインとして注目を浴びたのが、人的資本に関するISO30414だったのです。
世界ではすでに、人的資本が重要な経営指標のひとつとして加速的に広まっています。人的資源に関する情報を対外的に説明しようとすると、トップマネジメントとしてはどこまでが人事の範囲でどこからが経営戦略の範囲なのかを明確しなければなりません。
また、多様なステークホルダーに対し一元的な説明で理解を求めるには、まず自分たちの会社組織の文化がどのようなものかを明確にし、共有するリーダーシップが必要です。人事や健康・安全管理は、もはや経営企画の中枢となる戦略になってきているのです。
※以上が笹原英司氏によるアメリカ企業の健康やWell-being分野のESG/SDGs投資についての解説
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