前回は、自社の売却を相談する「M&Aアドバイザー」の選び方について説明しました。今回は、「従業員への配慮」というテーマについて見てきます。

条件交渉で「従業員の待遇」を約束しても・・・

オーナー経営者であれば、売却後の経営体制についても気になるでしょう。高値で売却できたのはよいが、大幅なリストラが行われ、これまで頑張ってきてくれた従業員が路頭に迷ってしまっては責任を感じます。まじめな経営者ほど、真剣に考えています。

 

そこで売却の際に「当面は今の体制で継続してほしい」と条件を出すことがあります。しかし、買い手の立場からすると、当面とはどのくらいの期間なのかということになります。仮に5年とした場合、その間は人事に手を出せないことになってしまいます。それでは、経営が成り立ちません。

 

場合によっては3年程度の維持を約束してもらえることもありますが、多くの場合は、1年程度で落ち着くことになります。その間は、現在の従業員をそのまま同じ待遇で雇用します、ということです。そして、1年後には査定をやり直すことになります。会社を売却する以上、これは避けられない問題です。

 

もしも、現状の経営体制を続けてほしいと願うのであれば、強い組織を構築しておくことです。強い組織であれば買い手も経営体制を変えようとは思いません。何もせずに利益を上げてくれるのであれば、その方が楽だからです。

 

しかし、一般的にはそのようなことは少なく、ある程度のテコ入れをしなければ、利益が出せない状況が多いのです。営業の仕方に問題があるとか、開発に問題があるとか、問題を見抜いているからこそ、「うちならもっとよくできる」と買い手がやってくるともいえるのです。

 

逆のケースもあります。この社員がいなければ、この会社は成り立たない、という人材がいるケースです。このような場合には買い手から売り手へ「重要な役割を果たしている社員は1年間継続すること」という条件を出すこともあります。その社員が拒否すればM&Aは破談になるか、売却価格を低くすることになります。

ほぼ100%反対される!? 役員・従業員への事前の相談

最終的にどう落ち着くかは、実際に交渉を始めてみないとわかりません。事前に調査はしますが、役員や社員の意向を確認することはほとんど不可能です。中小企業の場合には、オーナー経営者がM&Aについて、事前に役員に相談した場合にはほとんどがうまくいきません。さらに従業員にまで漏れてしまえば、ほぼ100%反対されます。


従業員が反対していることがわかれば、買い手も手を引いてしまうでしょう。これが、契約後であればまったく異なります。社員の気持ちは穏やかではないでしょうが、すでに決まったことであれば、そこで会社を辞めようという人はごく少数です。M&Aによるメリットもあるはずですから、社員も様子を見るはずです。


一般的には買い手の方が規模の大きな会社であるケースがほとんどですから、買収された会社の社員も、会社が安定したり信用力が上がったりというメリットを享受できます。


役員や従業員にいつ知らせるかにも、M&Aの成否がかかっているのです。

本連載は、2015年9月2日刊行の書籍『財を「残す」技術』 から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

財を「残す」技術

財を「残す」技術

齋藤 伸市

幻冬舎メディアコンサルティング

成功したオーナー経営者も、いずれは引退を考えなければいけない。そのときに課題になるのが、事業とお金をいかに残し、時代に受け継ぐかである。 保険代理店業を主軸として、オーナー社長の資産防衛と事業承継をコンサルティ…

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