前回は、会社を高く売るために「財務会計」の整理が重要な理由を説明しました。今回は、「決算書が整っていない会社」がM&Aで売れない理由を見てきます。

「買い手の立場」に立てないオーナー経営者も多いが…

本来M&Aとは非常にハードルの高いものですが、テレビや新聞などでも比較的見聞きするようになったために、簡単に考えているオーナー経営者が多くなりました。

 

オーナー経営者からM&Aの相談を受けたときには、「売却の最低金額はどのくらいですか?」と聞きます。すると「○億円」と答えます。ここまではよいのですが、「その金額の根拠は何ですか?」と聞くと、多くのオーナー経営者が「その分の投資をしたから」と答えるのです。

 

仮に1億円の投資をしたのであれば、それ以上の金額で売却しなければ割に合わないというわけです。その気持ちはわかりますが、買い手にとってはみれば、現社長がいくら投資していようと関係のない話です。

 

このように自分目線に陥ってしまっていることが非常に多いのです。実は、オーナー経営者がいい加減であるために、M&Aが成立しないというケースも少なくありません。アドバイザーの意見をまったく聞かず、理解しようともしない。

 

「買い手の立場に立って考えてみてください」と言っても考えようとしません。人もお金もまったく管理できておらず、決算書もでたらめです。業歴の長い会社であれば、銀行から融資を受けるために、損失を隠したりしているケースもあります。

なぜ会社の実態を知らない経営者が増えているのか?

M&Aに限っていえば、粉飾決算を行ったということ自体はあまりマイナスにはなりません。決算書を見ればすぐにわかります。アドバイザーからそのことについて聞かれたときにすぐに答えられるオーナー経営者であれば、問題ありません。その部分を修正したうえで、会社の状態を正しく評価すればいいのです。

 

しかし、過去に粉飾決算をしたにもかかわらず、それを覚えていない経営者もいます。こうなると、会社の実態を把握する方法がなくなってしまうのです。自分の会社が販売している商品を営業するとき、サンプル品をピカピカに磨いていない営業マンがいるでしょうか。

 

自分の会社というのは、最大の売り物であるにもかかわらず、会社の実態を表す決算書がぐちゃぐちゃになっているとか、会社の組織図がないなどありえない話です。

 

ほこりまみれのサンプル品を持って行き、手書きで見づらいパンフレットを広げて「買ってくれませんか?」と言っているのと変わりません。

 

最近は、営業経験のない経営者が多くなっているので、このような感覚が理解できないのかもしれません。

本連載は、2015年9月2日刊行の書籍『財を「残す」技術』 から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

財を「残す」技術

財を「残す」技術

齋藤 伸市

幻冬舎メディアコンサルティング

成功したオーナー経営者も、いずれは引退を考えなければいけない。そのときに課題になるのが、事業とお金をいかに残し、時代に受け継ぐかである。 保険代理店業を主軸として、オーナー社長の資産防衛と事業承継をコンサルティ…

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