「離婚慰謝料」と「不貞慰謝料」の違い
「親権者の定め」も必要
相談者のケースでは、夫は「離婚はどちらでもいい」と言っているようです。夫が離婚に応じてくれるのであれば、協議による離婚を考えていくことになります。
協議による離婚では、双方合意のもとで作成した離婚届を役所に提出することで離婚が成立します。ただし、未成年者の子がいる場合には、「親権者の定め」を決めることが離婚時に必須となっており、離婚届にも記載しなければなりません。
相談者の置かれている状況では、夫は「子どもの親権者を父とすること」を求めてくる可能性が高いことが想定されます。
夫が親権を求め、相談者としても親権を主張したい(夫に親権を譲りたくない)場合、「親権者の定め」について争いがありますので、協議での離婚は実現できず、家庭裁判所での離婚調停もしくは離婚訴訟での解決を検討することになります。
あわせて、子どもを夫から相談者のもとに取り返す法的手続き(子の監護者の指定・子の引渡し)の申立てを家庭裁判所に行うべき場合もあります。
親権者の定めがクリアできたとして、その他の離婚条件として、
・養育費
・面会交流
・財産分与
・離婚慰謝料
といった条件を協議して、取り決めることが多いです。
取り決めた内容は、「離婚協議書」という書面を作成して明確な形で残すことがお勧めです。
相談者と不倫相手の共同責任
このうち「離婚慰謝料」というのは、離婚原因を作ったことによる慰謝料を指します。
不貞行為も法律上の離婚原因の一つとされており、離婚慰謝料を支払うべき理由になります。不貞行為がきっかけで離婚に至った場合には、「不貞慰謝料」のほかに、「離婚慰謝料」の問題も出てくる、ということです。
不貞慰謝料の支払義務は、相談者と不倫相手の共同責任と考えられており、夫は相談者と不倫相手の両方に請求することができますが、どちらか片方だけに請求することもできます。
ただし、共同責任という性質上、片方が責任を果たすと、もう片方に請求する権利は残っていないことになります。例えば、夫が不倫相手に不貞慰謝料を請求して支払ってもらっていた場合、その慰謝料の額によっては、さらに夫が相談者に請求しようとしても、請求する権利は残っていないとされる余地があります。
もっとも、繰り返しになりますが、慰謝料を支払う義務がなくなった場合でも、相談者が「慰謝料を支払う」と合意をしてしまうと、合意の方が優先される可能性があることには注意が必要です。
一方で、離婚慰謝料の支払義務は、基本的に配偶者にのみ責任が生じるものと考えられており、原則として不倫相手に請求することはできないものとされています(最判平成31年2月19日)。
裁判で認められる慰謝料の金額も、個別の事情によりますが、不貞慰謝料よりも離婚慰謝料の方が精神的苦痛が大きいと考えられ、金額も高くなる傾向があると考えられています。